非凡で平凡な冒険者さんの恋3
柊さんは僕をとても大切にしてくれていて、不満はほぼないと言える。
でも、完全に不満はないって言えないのは一つだけ不満があるからだ。
……一緒にお風呂に入ってくれても、髪の毛を乾かしてくれても、一緒に眠ってくれているのに……。
「どうして、柊さんは僕にキスはしてくれないのかなぁー……」
と、染々とした声で幸助さんにそう聞けば強面な顔を真っ赤にさせていた。
ちなみに柊さんは、指名が来たので渋々と言ったような様子で、幸助さんの彼氏の碓氷さんと仕事に言ったからそう聞いてみたのだけど……、意外と純粋なのか結構年の離れているはずなのに可愛らしいとそう思ってしまった。
「……きっ、きっと柊にも考えがあるんじゃないかな! 柊も真面目だし、きっとそうだよ、あは!」
と、そう言った幸助さんは動揺してた。
……なるほどー、恐らく幸助さんもこの手のお悩みをお持ちなようで。
と、そう察した僕はにっこりと微笑んで、幸助さんにこう聞いた。
「何かお悩みで?」
と、そう幸助さんに聞けば涙目になり、コクリと頷いた。……柊さんが親身に相談に乗っていた理由が少しだけわかったような気がした。どんなに最強の魔法使いと呼ばれようと、どんな難解な魔法を使えても恋愛に対しては不器用で、一生懸命素直に伝えようとしても空回りする姿が放っておけないんだろうなってそう感じたんだ。
◇◆◇◆◇◆
仕事から帰ってくれば、年下なはずの葵に慰められている幸助の姿があって、当本人の彼氏でその恋人を溺愛している碓氷も、日頃から相談に乗っていた俺も、まさかの光景を見て流石に苦笑することしか出来なかった。
――ほんと、何があったんだ……。
と、自分がその間、指名があったばかりに出来事を把握出来ず、少しだけ悔しいようにも思える。
「どうせ、碓氷関係なんだろうけど……、いい加減その溺愛さを見せて言ったら良いんじゃないの、碓氷さんよ」
と、そう話しかければ、碓氷は苦笑しながらもどこぞの王子様だと思うくらいに綺麗に微笑んで、その微笑みからは想像出来ないくらいに腹黒発言をする。
「不器用な先輩も可愛らしいので、もう少しだけ隠していきたいかな?」
そう言う碓氷を説得するのを諦め、どうにか奥手で尚且つ素直になれない幸助が行動に移せるように背中を押さなくてはとそう思い、あの二人のいる方向へと歩き出した。
「幸助さんよ、良いのかい? 碓氷はモテるぞー、素直さを見せないと魅力的な女の子にとられちゃうかもしれないぞ? 折角、勇気を出して追いかけてきたんだろ、後悔する前にもう少し頑張ってこい。……碓氷もその頑張りに気づいてくれるさ、例え結果的に失敗で終わってもね?」
と、二人の近くまで近づいた後にそう言えば、少しだけ勇気を持てたのか涙を拭いて、幸助は何処か腹黒さを含んだ微笑みを浮かべた碓氷に駆け寄って行ったため、このテーブル付近には俺と葵しかいない。
年中、酒ばっかり飲んでいる周りのオヤジ達がこの時間帯になって、酔いが回ってないはずもなく、周りのことなど気にする必要もないだろうし……。
幸助が恋の話を自ら言い出すほどの勇気を持ち合わせているはずもないし、葵からその話を持ち出したのだろう、何か俺に不満でもあるんだろうか?
「葵、何か俺に不満でもあるのか?」
と、そう聞けば葵は頬を赤くさせる。
その様子から見れば、何かを直して欲しいとかの不満ではなさそうだ……と考えていれば、葵の思わぬ次の言葉に声には出さなかったものの、この発言にはとても驚かされた。
「……僕、柊さんのお嫁さんなんでしょ? だから、何でキスしてくれないのかなー……って幸助さんに相談したら、いつの間にか立場が逆転してて……」
そんな葵の不満はとても可愛らしいもので、一瞬驚いたものの、表情筋がだらしなく緩むかのように思わず俺は微笑みを浮かべてしまった後、葵の額に一度だけキスをした。
額にキスをした後、頬を真っ赤に葵を眺めながら相談する立場が逆転するとか、幸助ってばどんだけ恋愛に対して不器用なんだよとそう考えながら、
「続きはまた今度」
自分でも吃驚するくらい甘ったるい声で、葵にそう声をかける。
葵は自分の頬を包み込むように手を添えて、とても恥ずかしそうだった。
砂糖を吐き出しそうになるくらいに甘ったるい雰囲気を、絶妙なタイミングで壊してくれたのが幸助だった。
「好きだよ、馬鹿ッ!」
照れからか、言い逃げをしてしまった幸助を、愛しそうに見る碓氷の姿を見て思わず、碓氷ではなく幸助に同情してしまったのは俺だけではないはずだ。




