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非凡で平凡な冒険者さんの恋1

 “アイツ”に養子にされてから、歌が気に食わなかったら暴力を振られ、まるで奴隷のように扱われていたあの時、本当に奴隷されそうになったあの瞬間まで“アイツ”に逆らおうとも思うことが出来なかった、恐怖心で洗脳されて。

 必死で逃げた先がこの森で、ここ数年水で濡れたタオルで拭くことしか許されなかった生活をしてたおかげで本当の“容姿”を知らないアイツは魔物がいるこの森に入ったことで追い掛けるのを諦めてくれた。

 案の定? 魔物にやられて運良く逃げ切って草むらに隠れられたのだけど、無防備なことに気絶してしまった。


 気がつけば知らない男に横抱きされてて、これから奴隷にされちゃうのかなぁと遠い目をする。

 でも、この人ならそれも良いかなぁとも思う。……だって起きたら、あんなに怪我してたのに一つも痛くないんだから、僕のことを治療してくれたんだろうし、それだったら“アイツ”に用意された人生よりも例え奴隷にされたとしても、この人の側に居られた方が僕はきっと幸せになれると思うから。


「あ! 起きたみたいよ、柊。痛いところは他にないかな、あったら治療するから遠慮なく言って!」

 治療すると言っているからこの男の人は、魔法使いだろうか……?

 と言うか、僕を横抱きにしてくれているこの人、柊さんって言うんだぁとそう考えながら、特にもう痛いところもないから声を出さずに横に首を振った。

 自分の声は嫌いだ、この声を聴いた途端に周りにいた大人は顔色を変えた。

 ……声を出すのは、まだ勇気が出ない。

 と、僕は考えていると、黙り込んでいた柊さんはボソリとこう呟いた。


「素直でいい子だな。やっぱり、今後のために俺の嫁に……」

 と、そんな柊さんの発言に僕の頬はまるで沸騰したかのように熱く感じて、魔法使いさんがこの発言を遮るようにまだ諦めてなかったの!? と言ってくれたおかげでパニックを起こさずに済んだので良かった。声以外お前に価値はないと“アイツ”から言われ続けていたから、この言葉はあまりに僕には甘すぎるとそう考えていると、呆れたように魔法使いさんは柊さんに対してこう言った。

「あのねぇ、せめて本人の意思を聞くとかしなよ。一方的に勝手に決められたら可哀想でしょ?」

「経験者だから、言葉の重みが違うな」

 と、魔法使いさんの言葉に対して染々とそう返事をする柊さん。

 もしかして僕の意見を聞いてくれるのかな!? と内心では期待しつつ、柊さんの言う言葉を待っていると……。


「嫁になるかうんぬんはまだ早いか……」

 と、言う結論になってしまったようで、とても僕は残念に思った。

 ――奴隷にならなくていいなら、この人のお嫁さんになりたかったなぁ。

 と、そう考えていると魔法使いさんは柊さんの頭を軽く数回叩いた後、こう言った。

「この子、物凄く残念そうな顔してたけど? それでもお嫁さんになるかうんぬんの話は早いって言う訳?」

 そんな魔法使いさんの言葉に柊さんはとても驚いたようで、本当に一瞬だけ身体を硬直させていた。


◇◆◇◆◇◆


 幸助からこの少年が、嫁にするうんぬんの話は早いかって結論付けた時、残念そうにしていたと聞いて思わず動揺するなんて柄でもないのに、私男前な人が好きなんだー! と好きな相手から告白し続けた俺なのに……、嫁にするうんぬんの話は早いと結論付けた時にそのことが残念そうな表情をされる立場になるとは思ってもいなかったから、とても驚いた。

 流石、経験者は違うな。幸助はおいてかれた恋人の後を追っかけて王族専属の魔法使いをやめて、わざわざこの冒険者組織に所属しているんだけどー……、強面な顔をしているせいかちょっと色々あったみたいで、素直に甘やかされることになれてないから素直になれないことが悩みみたいだけどね、まああの人は照れ隠しだと気づいていながらとことん幸助を甘やかしてるみたいだけどー……。


「なあ、絶対にお前余計なこと考えてただろ! その顔絶対そうだろ!」

「お前こそまた悩みがあるんじゃないか? どれ、後で聞いてやろう」


 話をあの人関係に移してしまえば、その話に夢中になることを知っているからそう言ってやれば、幸助は涙目になって俺に勢い良く抱きついてきた。

 顔だけ強面なだけで、凄い本当は健気ないい子なんだけどな……。

 ちなみに俺は二十歳で、幸助は二十四歳。幸助の方が年上だけどー……、ついつい年下みたいで面倒を見ちゃうんだよな、俺の方が年下なのに……。


「お前みたいな兄貴が凄く欲しかった」

「残念ながら兄にはなれないな、何せ俺の方が四つも年下だから」


 案の定幸助にそう言われ、いつもの通りにそう言ってやれば嬉しそうにニッコリと笑いかけてくれる。

 ああ、本題からだいぶ反れてた。ここはナチュラルに彼に聞いてみるか。


「俺の嫁になる?」

 と、聞いた瞬間、迷うことなく直ぐに少年は頷いてくれた。

 ……即答だった。



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