非凡で平凡な冒険者さんの恋 プロローグ
「依頼のノルマ、これで終わりだな」
そう話す、今日の依頼の相棒の魔法使いに相づちを打っている冒険者、柊は自分の武器である弓を手入れした後、魔物のいるこの森を後にしようと支度を整えていると微かに鉄のような臭いがして、柊は辺りを見回した。
魔物退治をする度に、柊の神経は鋭さを増していくのだが、今日は何時に増して五感が優れていた。
そして草むらに痩せこけた腕が出ているのを見つけ、どれだけ辛い環境に居たのかと思うと……、柊は顔を歪めながらその草むらに近づいていき、その腕の持ち主を自分の懐へと抱き寄せた。……良く耐えたなと思いを込めて。
「幸助、頼む。この子の治療をしてくれ」
近づいてきた魔法使い、幸助に対して振り返ることなく柊はそう頼み込み、その言葉に対して幸助は勿論とそう即答した後、抱えられた状態のまま治療し始めたのだった。
「この子、治療したけどどうするの? 見たところ、奴隷にはされていないみたいだけど……、治療しただけじゃ無責任だと思うし、どうするの?」
ものの数分で治療を終えて幸助にそう聞かれた柊は傷は治ったものの、痩せ細った少年の頭を撫でながら考える素振りすらも見せずに直ぐにこう言った。
「まあ、責任を持って面倒は見るけどさ、いっそのこと嫁にしようかな」
「嫁にすんの!? 確かにこの大陸では同性結婚も認められてるけどさ、この少年の意思もあるでしょ!?」
横抱きに抱え直して、幸助の質問に対して大真面目にそう答えた柊に、これまた大真面目な幸助も最もなことをそう言って、この二人しかいないため、この発言に対してツッコミを入れる人がいなかった、少年の意志で良いって言ったなら嫁にして良いのかと。
それが後に“歌姫”と呼ばれる少年と、弓術では天才と呼ばれる平凡顔な冒険者が出会った日のことだった。