平凡な教師に愛されて
短編です
「保井くん、いつまでそんな顔を隠すような格好をしているつもり?
自分の身を守るために剣舞まで頑張って覚えたんでしょ、堂々としてれば良いんじゃないって思うよ?」
と、月イチの生徒相談でいつも担当している保井 郁くんは自分の顔にコンプレックスを持っている子で、三年間生徒相談を担当しているうちに僕の前だけでは容姿を見せてくれるようになったものの……、トラウマのせいかあと一歩のところになると怖じ気づいちゃうみたいで、根暗を印象付けちゃうような格好で最終的に学園に通ってしまうみたい。
「……頑張ってる」
……でも、と言いかけた途端、使用中となっていたはずなのにここの教室のドアが開かれて、俺も保井くんも思わず身構えてしまうくらいに驚いた。
保井くんの相談に乗り始めて三年目だけど、こんなことが起きるのは初めてだったから戸惑った。
「ひぃ!」
保井くんは保井くんで、いきなりの日野 綾瀬くんの登場に怯えてしまったみたいで、情けない声を上げて机の下に隠れてしまった。
先客がいたことにやっと気づいたのか、日野くんは机の下を覗き込んだ。
「ああ! 保井郁先輩と一緒だったか、すまない。驚かせてしまったみたいでな、驚かせてしまって申し訳ない」
と、そう言っていたが、日野くんが誰なのか当てたことに再び驚いた。
そんな俺に対して、日野くんはニカッと歯を見せて爽やかに笑い、衝撃の一言を言われたのだった。
「紅坂先輩がまた正当防衛で、相手側の十五人が怪我人になっているぞ」
と、そう言われて、
「ごめんね、保井くん! 紅葉くんが心配だから、今日の生徒相談は終わり。本当にごめんねぇ」
そう言えば、保井くんは未だに机の下にいたままだったけど、何回も頷いてくれたことを確認出来たため、有難いと感じながら、僕は急いで紅葉くんの元に向かうのだった。
「紅葉くん!」
と、全力で走ったせいで脇腹に痛みを感じながら、恋人の名前を呼べば飄々とした表情で紅葉くんは現れ、素っ気なく「なんだよ」と言われてしまったけど照れ隠しだとわかっている今では、全く気にせず素直じゃない彼を抱きしめる。
「……生徒相談じゃ、なかったのかよ」
「日野くんから、紅葉くんがまた正当防衛してたってきいたから心配になって早く終わらせてきたんだ」
と、紅葉くんの疑問に素直にそう答えれば、照れているのか頬を赤らめた。
そんな紅葉くんは、別にそんなことしなくて良いのに……と素直じゃないことを言うが、照れ隠しなことはわかっているため、抱き締めたまま額にキスをすると紅葉くんは……、
「でも、ありがと。すっ、好きな人が直ぐに来てくれて嬉しかった」
顔を真っ赤にさせてそう言ってきた紅葉くんが、愛しくて愛しくてしょうがなくて、思わず僕も、
「……僕も好きな人に頼られるととても嬉しいよ、紅葉」
と、そう言えばますます顔が朱に染まっていく紅葉くん。
「調子に乗んな、馬鹿」
少しくらい調子に乗させて下さいよ、ね? と内心でそう考えながら軽く抵抗してきた紅葉くんを押さえながら、満足するまで抱きしめていたのだった。
五組目はこの短編にも出てきた、郁と綾瀬の話となっています。