魔法使いの不器用な恋 前編
行動すら照れて行動に移せない、幸助さんは碓氷さんだけじゃなく年下な僕も可愛いって思ってしまう。まあ、僕は柊さん一筋なのですけどね……?
さて、幸助さんはせめて行動で気持ちを伝えようと葛藤しているみたいだけど、そんな姿を見て愛しそうに見つめている碓氷さんはとても腹黒いと思う。
あの顔に凄く苛ついて、僕は油断している碓氷さんの背後に立ち、いい加減にしなよとそんな気持ちを込めて太股を蹴れば、本当に油断していたようで、床に座り込んでしまった。
「いい加減にしなよ、性格悪いね」
……一生懸命、恋人が自分の気持ちを伝えようと頑張っていることをわかっているはずなのに、見ているだけなんて性格が悪い。見ているだけならせめて側に行くとかそれくらい、してあげても良いじゃないかってそう思う。
「……このままなら、見捨てられるのは幸助さんじゃなくて貴方じゃない?」
睨み付けながらそう言えば、内心で何を思っているか隠すような笑顔を浮かべて碓氷さんはこう言う。
「……そうだね、素直じゃないのはお互い様なのかもしれないね……」
決意したような目をする碓氷さん。
何を決意したのかはわからない、ただ幸助さんの頑張りが報われますようにとそう願うばかりだった。
そんな目付きをした碓氷さんを見送れば、柊さんがやって来て頭を撫でてくれた後、耳がとろけてしまうんじゃないかって思うくらいに耳元で囁かれた。
「頑張ったね、葵」
……当たり前、幸助さんにも助けられたもの。恩返しをしたいけどこんなの、恩返しにもならないよ。
◇◆◇◆◇◆
「隣良いですか、先輩」
あの日からあまり自ら近づいて来ようとしなかった碓氷が珍しく、俺の隣の席へとやって来た。
隣良いですか? と聞きつつも座っている碓氷に対して、何も言わずに無言で頷くことしか出来なかったが、素直じゃない言葉を言わなかっただけ進歩だ。
……さっき、葵と何か話していたみたいだけど、それ以降からどうして一定の距離を保っていた碓氷が、俺に近づこうとしてきたのだろうか? と考えれば考えるほどに、疑問に思うことは絶えることなく思いついていってしまう。
「未だに先輩って呼ぶんだな、……別にお前の隊の上司じゃなかったのに」
そう拗ねるように言えば碓氷は、ただすみませんと謝ってくるだけだった。
もう辞めたんだから、先輩って呼ぶ必要なんてないよと言えれば良かったのに言えなかったことに後悔した。