平凡な教師に恋をして3
諦めようと決めた。
そのために楽都に言われた通り、青川先生を避けようと決めたんだ。
……なのに、青川先生はいつも通りだった。いつも通り授業をして、笑顔を浮かべているし、やっぱり俺みたいな生徒に避けられたって痛くも痒くもないんだと身を持って知った。
……だから、柱の陰で泣いた。俺が耐えられなかった、避けてもただの生徒でしかないと言う現実を諦めようとしている時に知って辛くなったのは避け始めて四日目のことだった。
しばらく泣いて、泣いているところを探していた楽都に見つけられて、付き添われるように支えられてまた雪野さんの部屋にお邪魔してしまった。
「……楽都くん、この方法じゃ紅葉くんが辛いよ。見てる僕も辛い、他に良い方法はなかったの?」
と、話の内容が全くついていけない質問で、俺は雪野さんに頭を撫でられながら混乱をしていた。
……楽都が何をしようとしているかなんて、楽都じゃないからわからない。
「……うん、あのクソ兄貴が彼処までヘタレだとは思ってなかったわ。
よし、紅葉。外堀をうめに行くぞ、撤回出来ないように徹底的にな……?」
もう、こんな辛い思いをしなければ何だって良い、楽都の指示に従おうと俺は素直に頷くのだった。
◇◆◇◆◇◆
「……兄貴」
怒りに満ちた弟の声。
……当たり前か、紅葉くんのことを頼まれたのに本格的に嫌われちゃったし、傷つけちゃったしね。
ごめんね、大切な子を守れなくて逆に傷つけちゃうような馬鹿な兄貴で。
「お前馬鹿なの?」
そうだよ、馬鹿だよ。
ああ、この声。本格的に呆れられてるし、僕に対して怒りをぶつけてる。
ごめんね。最初からこうなるなら後悔する前に、本格的に嫌われる前に本心を言っておけば良かった。
「馬鹿兄貴の格好つけ。情けない姿、さらしちまえば良かったのに……」
仰る通りです、反論も出来ないよ。
……でも、それが出来たらどんなに楽だったか。常に情けない姿しか見せてないけどね……。
ごめんね、楽都。情けない兄貴で。
「……そしたら紅葉だって傷つかなくて済んだのにな、兄貴はどれだけ紅葉を泣かせれば済むんだよ」
その言葉だけは納得して受け入れることが出来なかった、……僕の行動が紅葉くんを泣かせてた?
「どういうこと!? 教えて、どうして紅葉くんを僕が泣かせてしまったの!?」
僕は楽都の懐を掴み、必死になってそう聞けば真剣な表情でこう言った。
「……行動で示したってな、すれ違ってたら意味はないんだよ。今は立場なんて気にすんな、もし無職になったらそしたら兄貴は責任をもって嫌がっていたあの“職業”につけば良い。当たって砕けろ、馬鹿兄貴。兄貴のためにお望みの人物も連れてきてあるぞ?」
僕の手を簡単に外して、この部屋から出て入れ代わりに……、目を腫らした紅葉くんが入って来た。その目には決意したような意志が宿っていた。
◇◆◇◆◇◆
……当たって砕けろか。そうだよね、青川先生に告白して振られてこの気持ちから解放されよう。
そしたら、……流石に諦めがつくよね?
「青川先生」
青川先生を呼んで俺は少しずつ近づいて、あと温もりを感じられるまであと三十センチのところまで来た時、俺は自然と微笑んでこう言ったんだ。
「好きです」
って言ったはずなのに、何でだろうか? 俺は青川先生に抱きしめられて。
青川先生はしばらくずっと、俺を抱きしめて離してはくれなかったんだ。