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クライマックスなう!~彼女の秘密とおれのうそ~  作者: このはな
1.トホホなおれのバイト始め
7/27

 彼女の名前は、三藤みとうあやのさんといった。見た目は童顔で、おれと同じ高校生にぐらいしか見えないのだが、十歳も年上の二十六歳だという。そして、驚いたことに既婚者なのだそうだ。

 思わず、おれは堀越とあやのさんの顔を見比べてしまった。

「え、二人は姉弟なの? 義理の……。でも、苗字がちがうし」

「ああ。あやのさんは、兄貴の嫁さんなんだ。二人とも、うちの会社で働いているんだよ。苗字がちがうのは、会社の中だけさ」

「兄貴? おまえ、兄貴がいるの? だって名前に一郎ってついてるじゃん」

「母ちゃんが野球のイチローのファンだからな。弟なのにつけたんだよ」

「へ、へえ。あのイチローかあ」

 またひとつ、堀越の秘密が明らかになった。こいつは、おれの知らない秘密をいくつ持っているのか。つくづく不思議なやつだ。

 堀越は、皿の上のほっかほかの肉まんをひとつ取ると、「あちち」と言いながら、ふうふう息を吹きかけた。

「言ってなかったっけ?」

「言ってなかったよ」

 大きくうなずいたおれ。

 そんなおれたちの会話がよほど面白かったのか、あやのさんは「フフッ」と声をだして笑った。

「陽一郎さんと佐古さんは、とっても仲がいいのね。うらやましいわ」

「うらやましい?」

「ええ。だって陽一郎さん、ちっともわたしとお話ししてくれないんだもの」

 あやのさんは、いわくありげな視線を堀越に投げた。「そうよね、陽一郎さん」と下からのぞきこむ。

 堀越は返事もしないで、ただ黙って肉まんを食べつづけていた。


 ん? もしや……。


 ああ。なんとなく、堀越の気持ちが想像できる。

 ちょっと、気まずかっただけなんだよな。いきなり、こんなにかわいいお姉さんがあらわれたものだから……。

 その姉さんが自分の好みのタイプだったら、よけいに辛かろうて。

 おれははじめて、心の底から堀越に同情した。


 おれだって、そうだよ、堀越。

 スケッチお姉さんの笑顔を見たときから、なんとなく変なんだ。魚の小骨がのどに引っかかったような、妙な感じがしてさ。

 おれたち、けっこう同類なのかもしれないな。

 

「おい、堀越。もっと食えよ。おれはいいから」

 自分の皿を堀越の前に押しやる。

 堀越は怪訝けげんそうな顔をした。

「おまえこそ遠慮するなよ。何も気にしないでいいと言っただろう?」

 と、皿を押し返してくる。

「だけどさ、あまり仕事らしい仕事をしてないし。バイト代の他におやつまでもらうなんて、なんか申し訳ないよ」

 おれがそう言ったら、堀越の手が止まった。

「佐古、今なんていった? 仕事らしい仕事をしていないって、どういう意味だよ。おまえ、あの会議室でいったい何をやってるんだ?」

 思ってもみなかった堀越の反応に、おれは戸惑ってしまった。



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