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「佐古、ちょっと話があるんやけど」
チャイムが鳴って放課後、ホームルームが終わり教室を出ようとしたら、野太い声に呼び止められた。
声がした方を振り向くと、堀越が立っていた。
「え、おれ?」
堀越とは同じクラスだけど、親しくはない。ていうか、口をきくことすら皆無だ。それが、向こうから声をかけてきた。びっくりしない方がおかしい。
「あたりまえだろ。このクラスに佐古っていったら、おまえしかいないじゃん」
「ま、まあ。そうだけど」
「もしかして、急いでる?」
「え? いや、別に」
と、もごもご口を動かしながら、「しまった」と思った。
実を言うと、いつもクラスの中心にいる堀越は、おれの苦手なタイプだ。休み時間だれとも話さずに、席でひっそりラノベを読むおれとはまったくの正反対、スポーツ万能のさわやか高校球児だし。
まいったな。どういうわけか、やたらと手が汗ばんでいる。クラスメイトと話をするだけなのに、こんなに緊張するなんてさ。
どうして他のヤツじゃなく、おれに声をかけてきたんだ。はあーあ、冗談じゃないよ。
すると、堀越はニッと歯を見せて笑った。
「ストレートに訊く。な、おまえさ、うちでバイトやんね?」
……は?