と(勇者)
晴れわたる青い空に、澄み切った空気。
そんな日は必ず心地よい眠気に襲われる。
今日はいったい、どんな夢を見せてくれるのだろう。
「勇者様!」
僕は今日も、そう声をかけられる。
あぁめんどくさい、めんどくさい。魔王を倒してからというもの、知らない人間に声をかけられる回数が増えに増えた。
平穏な生活を邪魔されたくないがために魔王を倒してきたというのに、これじゃあ意味がないじゃないか。どうしてくれようか。
そんなことを僕がおもっているなんて、想像すらしていないであろう通行人共は、うっとおしいほど僕を構いにかまい倒した。それはもう、人間の相手をすることで過労死してしまうと錯覚するほどに。
そりゃあ長年鬱陶しく思っていた元凶がいなくなり、日常生活に平和という二文字が帰ってきたんだから浮かれてしまうというのはわからなくもない。だからそこだけは僕だって認めてはいる。
だけど物事というものには、多かれ少なかれ限度というものがある。
毎日、顔もわからない見ず知らずの人間達が馴れ馴れしく声をかけてきたら、どんなに温厚な人物であろうと多少なりとも鬱陶しさを感じるはずだ。
そんな温和な人間でさえも心労を訴える状況に、常人が耐えられるはずがないだろう。
こんなことになるなら、魔王なんて倒してこなければよかったとすら思えてくる。今からでも魔王にお願いして、また日常を脅かして貰おうか……。
そんな僕の心中を微塵も理解してない通行人たちは、お構いなしに僕に話しかけてくる。
「勇者様、聞きましたよ。あなたの武勇伝の数々を、いやーやっぱり勇者様だけあってかっこいいですなぁ!」
「勇者殿、あなたのおかげで私ら家族は救われた。感謝してもしきれんよ。ありがとうな」
「勇者様!ぼく、おっきくなったら勇者様みたいになるねっ!」
僕に武勇伝なんてないし、知らない人間を救ったおぼえもない。ましてや僕は体たらくで不真面目な人間であり、子供の見本になるような人生は一歩たりとも歩んだ覚えはないのだが、彼らはそれを知っていてそんなことを話しかけてくるのだろうか……?
否、知らないからそんな事が言えるんだろう。
こんな状況だ、僕が出歩くのすら億劫になるのも納得できるだろう?
あぁめんどくさい、めんどくさい。
家でごろごろと昼寝を嗜んでいたい。魔王がいなければもっと悠々自適に暮らせるんだと思ってた。なんだよ、僕の生活が不便なのはすべて王のわがままだったんじゃないか。国王というものには失望したよ。
そんな不満を並べていたら、何時の間にやら自宅に着いた。
買い物もあらかた済ませたし、引き篭もっても問題はない!
それに魔王という同居人も増えたのだから、今までの寂しい生活ともおさらばだ。
「ただいまー」
「おかえり」
今までなら静寂の中に消えていくだけだった声も、今は反応が帰ってくる。
勇者をしたんだから、これぐらいの報酬は貰わないとね。
のどかな日差しが心地良い。朗らかな気分になる。
何もかもやる気はでないけど、心が暖かいのはいい事だ。