へ(微ホラー)
晴れわたる青い空に、澄み切った空気。
そんな日は必ず心地よい眠気に襲われる。
今日はいったい、どんな夢を見せてくれるのだろう。
夜になるとお化けが出るらしい。
そう、噂される道があった。
その道は、学生が登下校する時に毎日利用しているもので、住宅街に面しているごくありふれた道だったのだ。
何十年、何百年。この道はここに在っただろう。意識されることなどなく、今まで過ごしていただろう。
だが最近、妙な噂話がたちはじめたのだ。
"夜になると女の子が手招きをする"
学校の七不思議のようなそれは、所詮は作り話だろうと思った。だから僕は今日ここへきたというのに……。
僕の目の前には、桃色のワンピースで身を包んだ小学2年生ぐらいの女の子がいる。その子との距離は5mほどで、少し歩けば隣に並ぶことができるぐらいだ。
通常なら、迷子なのかと心配しながら近づいているはずなのだが、どうも足が思うように動かせない。女の子は手招きをして僕のことを呼んでいるというのに。
さて、どうしたものかと自分の体を見下ろしてみると、僕の膝を年端もいかない男の子が抱きしめていたのだ。どうりで動けなかったわけだ。動けないようにされてしまっていたのだから。
まずは男の子に腕を離してもらうべく、腰を折り手を伸ばしたのだがすっかり忘れていた。
僕は体が異様に硬かったのだ。
だから、膝をおらずに膝に触れることなど、天変地異でも起きない限り不可能だと言っても過言ではない。今だって、伸ばした僕の腕はプルプルと空を彷徨いながら限界を訴えている。
こんな事になるならもう少し柔軟性を身につけておくんだった……。子供の腕をほどく事すらままならないなど、恥以外の何物でもないのだから。
そんな事を胸中で思いながらも、頭の中では何か良い解決策はないものかと思案していた。
とりあえず声をかけてみよう。
そう思った僕は、男の子に声をかけようと口を開く。でも、その口は開いただけで閉じることはなかった。
僕は男の子になんて声をかければいいのかわからなかったのだ。
いや、どうしたのだとか、離して欲しいだとか、そう言った事は思いついているんだ。もう、口を開くと同時といっても過言でないほどに。ただ、男の子をなんて呼ぶのが正解なのか。それが分からないのだ。
流石に、そのまま男の子などと呼ぶのはおかしいだろう。では、少年か?いや、それも不自然すぎる。君というのも、もう少し年がいってる青年ぐらいを呼ぶものだと思うのだ。ならば、坊ちゃんか?これだって、僕はこの男の子の執事でも何でもないんだ。そんな呼び方をしたらどんな人間であれ、多少なりとも不審感を抱くはずだ。
はてさて、どうしたものか。
案は出ようと実行に移せないのでは、元も子もないではないか。これぞまさに実力不足。
でもどうにかしてこの男の子の腕を引き剥がさなくては……。
とりあえず身じろいてはみるが、びくともしない。子供というものは手加減を知らない分、すべてに対して本気で当たってくるから厄介だ。
女の子も動く気配はないし……。自分自身でどうにかしろってことですよね。というか、こんな夜中に子供がで歩いてる事自体がおかしい。親はなにをして居るんだ。
少年がじゃれ付いている足が邪魔でしかながない。もういっそ足ごと持っていけばいい。そうすればあそこにたどり着けるというのに。
その時の僕は、早く女の子のもとへ行かなくてはならない。
そんな気がしたんだ。
でもやがて、それを後悔することになる。
日が登り始めて、この細道も薄明かりに包まれ始めていた。
そこで見たのは赤。
女の子の足元に無数に転がった赤い塊。それがなんだったのか、原型はもうわからない状態になってしまっているが、それがなんなのかは一瞬で理解した。
これはまずい。
動けないではないか。
逃げ出したい。
動けない。
離せ、放せ、はなせ、ハナセ……。
ハナセハナセハナセハナセハナセハナセハナセハナセハナセハナセハナセハナセハナセハナセハナセハナセハナセハナセハナセハナセハナセハナセハナセハナセハナセハナセハナセハナセハナセハナセハナセハナセハナセハナセハナセハナセハナセハナセハナセハナセハナセハナセハナセハナセハナセハナセハナセハナセハナセハナセ。
「放せこの化け物がっ!」
気がついたら叫んでいた。
そして男の子は消えていた。
僕は走り出す。
何処へだって?何処かへだ。
この女の子がいない、何処か遠くまで走り続けた。
やがて何処かの公園で、僕は足を止めた。
ここまでくれば……そう慢心したのが悪かった。
ワタシハココヨ?
目の前にはさっきの女の子。
ああ僕は逃げられない。
そう、察した。
何の変哲もない通学路。
何故あんな夢をみたのかは、謎だ。
あ、そうそう。
僕には最近妹ができたんだ。
ある日突然部屋に居て、あの子は自分を僕の妹だと言っただから僕は兄弟が出来たとはしゃいだんだ。
その日の夜、両親にそのことを伝えると、僕らのことを奇怪なものを見るような目を向けられた。
なぜそんな目で見るのか、僕にはわからなかった。