ほ(異世界ファンタジー)
晴れわたる青い空に、澄み切った空気。
そんな日は必ず心地よい眠気に襲われる。
今日はいったい、どんな夢を見せてくれるのだろう。
星降る夜に王子様が落ちてきました。
なんて、乙女ちっくな事は私には起きてくれなくて、その代わりに私が何処かへ落ちて行くことになったみたいです。
かぐや姫でもないのに、何処かに旅立つなんて事になるとは思わなかったよ。
極々平々凡々な私の人生の中で、別の世界に行くなんて未来を考える事自体が奇異な事で、こんな事態に遭遇するなんて事考えたこともなかった。
今から辿り着くであろう未知の世界に不安感は抱けるけど、高揚感は微塵も感じられない。
よく漫画世界では、異世界という場所にたどり着いた時は必ず目を輝かせていたっけ。こんな恐怖心しか感じさせないものにそんな興奮をおぼえられるほど、私の心は余裕がないから今にも未知へのストレスで、胃に穴があきそうだよ。
"宇宙"というべきか、"夜空"とよぶべきか、私にはそれを正しく選択できるほどの知識は持ち合わせてはいないけど、"星の海"に私の体はたゆたっていて元居た世界も、今から行くであろう世界も、どこにあるのかなんてわからない。けれども、今の私は心地よい夢をみている時ぐらい心穏やかなのは間違いない。
もうずっと何処にもいかずにこのままでもいいかもしれない。
苦しいこととか、悲しいこと、辛いことに触れずに、ずっとここでゆらゆらと、ふらふらとしているほうが今までより幸せなのではないかな?
私の知らない変な場所へ行ってしまうぐらいなら、ここに居たいなぁ……。
なんていう私の願いは叶わなくって、暗かった海が真っ白に光ると私は見たこともない世界に放り出されてしまっていた。
その世界を瞳に写して、はじめに思った事は……翼。
ここの世界の人間は皆、背に空を飛ぶための羽が生えているようで、その条件を満たすものは例外無く翼を授けられているみたい。なんてったって異世界からきた私ですら、背中には真っ白い双翼が生えているのですから。
私は天国にでもきてしまったのでしょうか?
こんなに若くして天寿を全うしてしまったのでしょうか?
もしそうならば、悔しさでいっぱいです。駅前に新しくできたクレープ屋さんに行きたかった。漫画の新刊が読みたかった。買ったばかりの服を着てお出かけもしたかった。
お願いです。
私はこんな人生に満足なんてこれっぽっちもしていないから、どうか霊体しにて現世に送り返してください。
私はてっきりファンキーでファンシーな異世界で、第二の人生を歩めると思っていたんです。こんなところで人生を終わらせたくは無いんですっ。
なんて事を言ったとして、私はこの世界から出られないのでしょう?
背中に羽も生えてますし……。
でも、そんな事はいいんです。そんな事は。大問題なのは、この世界での私の扱いについてなのですから。
もし、未確認生命体として認識されていたのなら、私はきっと見世物にされる。動物園のパンダ状態。だけどそれは人気があるからじゃない。物珍しさでとりあえず見ておきたいだけだ。
もしそんな事をされたら、私は間違いなく見られる事へのストレスで死ぬ。嘘偽りなく、真実として死ぬ。だからそれは避けなくてはならない。
そんな事を思ってひとりでビクビクしていると、好奇心旺盛な少年・少女たちが戯れてきた。
「おねーさん、どーしたの?」
そんな純粋で間延びした声が、緊張で固まった心を解かす。
でも、どうしたのかと問われても、異世界から来ましたこの世界について教えてくださいとは言えないし……わりと本気で焦っている私。
きっと、さっきいた所の友達なら、腹を抱えて笑ってくれていただろう。滑稽だと。
そう思うと、やっぱり寂しいな。今まで築いた"つながり"を捨てていることになるのだから…。いやいや、湿っぽいのはやめにしよう。うん。今更想ったって無駄無駄。
今はこの子たちに言葉を返さなきゃいなけいんだから。
「おねーさんねぇ、お空から来たんだよー」
焦り急かして何も考えずに、冗談めかしてはなたれた言葉がこれだった。
口にしてからよく考えてみると、どう考えてもここは天空にある都市で、空にある空とは一体全体どういう事だろう。常識外のこの世界で、今までの常識的なファンタジー言葉は通用するはずがないではないか。
失敗した。
それ以外の結論は、出てこない。
それ以上の結果は、齎されない。
あぁ、どうしよう。
この先ここでやっていける自信が持てないよ。
目を覚ました私は、飛べる気がした。そんな事があり得てしまうはずがないのに。
でも何処か別の世界にいける気がして、部屋の扉を開けてみた。