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P9

クラスマッチは県の総合体育館で行われた。

各自現地集合という事で、場所がわからない僕は湊と待ち合わせをして一緒に行った。

昨日までの雨がウソのように晴れて、

少し寒いくらいの空気を、早いペースで太陽が暖めている。

今日は暑くなりそうだ。

体育館の観覧席が、一応の荷物置き場と休憩所を兼ねている。

一年生の割り当てられた場所のうち適当に、一組らしいんじゃね?ってことで、

一番端の一角をキープした。

湊は移動途中の通路で他のクラスのヤツと話し始めたので、

先に席に荷物を置いて靴紐を直したりしていた。


「おはよ、ここいい?」


掛けられた声に顔をあげる。……誰だ?


「え、ああ、うん」


同じクラスのTシャツを着ているから、一組のやつなんだろうけれど。

まず目が行ったのが、紅に濡れる唇。

白い滑らかな頬は薄く上気して、細い顎と首に続いている。

ハチマキからこぼれた髪が、黒目がちに光る目に掛かっている。

こんなキレイなやつ、うちのクラスにいたっけ。

クスっと笑いながら荷物を肩から下ろして隣の椅子に置く姿をぼんやりと見る。

あれ、そういえば。

そいつは前の通路に立ち、一組のやつらが座っている一角に向かって話し始める。


「みんな、おはよう。今日の試合の組み合わせが決まりました。

 一組で一番早い試合が、女子バスケで、Dコートの2試合目、相手は12組。

 次が男子サッカーで、3試合目。

 場所はサブコートとかでちょっとわかりづらいけど、各自確認しておいてください。

 開会式が9時からだから、5分前にはアリーナに整列を……」


修、なのか。

ごめん、話の内容、全く聞いてなかった。というか、頭に入ってこなかった。

多分、クラスのやつらも似たようなものだろう。

修はそのリアクションにゆっくりと言葉を切って、

自分のTシャツや両腕を不審そうにきょろきょろと確認し始めた。


「何? イベントで気合入っちゃった系?」


背後からの声に、咄嗟に立ち上がって振り返る。戸川、またお前かよ。


「いいだろ、別に」


言い返して立ち上がり、そのまま修の顔を間近で見る。


「修、メガネないとめっちゃ雰囲気変わるね。一瞬わかんなかった。

 メガネない方がいいよ! 今日はコンタクト? 髪も短い方が似合うかも。

 今のもいいけど、その方が」


ハチマキで後ろに流した髪に触れようと手を伸ばすと、

びく、とほんのわずか後ずさる。

なんだ? 別に殴ろうとしたわけでもないのに。

それにしても、こんな風に怯えたような目をすると、その雰囲気は少女のよう。

こんなに可愛いのに、なんであんなだっさいメガネと自分で切ったような髪で隠す?


「もったいないよ、せっかくきれいな顔してるのに。修ってさ、お母さん似?」


上気していた頬がさっと青ざめて、痛みに耐えるような、泣きそうな表情に変わる。

あれ、気に触るようなこと言ったか……?


「修?」


「開会式、遅れないで」


震える声で小さくそういって、観覧席の階段を駆け上がっていく。

なんだったんだ? 呆然と立っていると、入れ違うように湊が降りてきた。

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