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P8

日々、少しずつ学校に慣れていった。

始めのうちは絶望感も感じていたけれど、

蓬泉は思っていたほどひどい学校じゃなかった。

成績に対する考え方が、体育会系で、シンプルでシビア。

実力主義でテストの成績がよければ見えやすい形で評価されるし、

逆なら落ちていくだけ。

むしろ、どこか閉鎖的で内部進学と外部進学の差別みたいなものがあり、

ぽやっとした雰囲気で保護者や生徒に媚び、

事なかれ主義でなあなあになっているリュシオルより、

僕には合っているようだった。


なにより、クラスに同じ年の女の子がいる。

ずっと男子校だった僕には、当たり前に学校生活の中に女子がいて、

休み時間に誘い合ってトイレに行ったり、

お弁当を誰と食べるかで葛藤したりしている様子は、不思議で新鮮だ。


やっと学園生活も落ち着き始めた頃、今度はクラスマッチが行われるという。

選手のチーム分け、クラスTシャツ作りなど面倒な事が盛りだくさん。

まったく、面倒な事はほぼ全て委員長、副委員長が絡むっていうの、

何とかならないものかな。

いや、これはうちのクラスがある意味特殊なのかもしれない。

なんたって委員長がなんでも抱え込むから、こっちがとばっちりを食う。


湊と修とはずい分仲良くなったし、出会った当初のイメージともかなり変わった。

物静かに見えて内心勝気なやつ、とか思った修は、実はただの天然だった。

誰かに対して怒ったり、悪い感情を持ったりする事がないようで、

本音と建前みたいなものを読み取る事もしない。

困っている人を見ると手を貸さずにはいられないらしく、

こっちがハラハラするくらいだ。

話していると「ああ、頭がいいやつなんだな」と感心する時がほとんどだけれど、

その一方で、なにか重要な部分がごっそり欠落している。

時に、本当にたまにだけれど、幼児が笑顔で蝶の羽を引き裂くような、

無邪気な残忍性をみせる。

こいつの中には何があるんだろう。

知るごとにわからなくなる。掴めなくなる。おもしろいなあ。


とあるいつもの昼休み。

修が湊に、バレーの練習に付き合ってほしい、と言い出した。

クラスマッチで、僕たちは3人ともバレーの選手になっていた。

一組は湊ともう一人、須貝君という経験者がいるけれど、

あとは運動音痴ばっかりで、パスさえまともに続かない。

それでも、休み時間にまで練習する事か?

苦手な事をやりたいなんて、なんでわざわざ面倒を増やすんだ?こ

ういうところが、理解できなくて唖然とする。

元バレー部の湊はうれしそうに、その申し出を了承した。


僕はバイオリンとピアノをしていたからずっと避けていたけれど、

別に球技が苦手なわけじゃないし、昼休みはどうせヒマだし、

二人に付き合う事にした。

面倒だな、と思ってはじめた事だったけれど、やってみるとなかなかに楽しい。

初夏の中庭は気持ちいい陽射しと風が通り抜けて、

動くと程よく汗をかいて運動不足気味の体が軽くなる。

はっきりいって、練習し始めた頃は、修を無様だなと思っていた。

ボールを受ける格好も、遠くに弾いてしまったボールを拾いに行く姿も。

湊は呆れずに丁寧に教えていたけれど、一緒にいる恥ずかしさもあって、

正直、ちょっといらっとしていた。

当の修本人も恥ずかしかったり申し訳なかったり思うらしく、

失敗すると気まずそうにしていて、すぐに諦めるかと思ったんだけれど、

必死になって練習を続けた。


努力と根性なんて、大嫌いな言葉だ。

けれど、徐々に上達して動きがきれいになっていくのを目の当たりにすると、

何か、うまくいえないけれど、胸に迫るものがあった。

一組の他の選手も練習に参加するようになったし、

ふと気付くと他のクラス、他の学年のやつらまで練習をし始めている。

僕たちが練習を始めたのがきっかけだろう。

どこの輪も、うまいやつが下手なやつに丁寧に教えていて、

声を掛け合って励ましている。

誰かの必死に努力する姿が、他の誰かを動かす事がある。

そんな事が、こんな身近の現実に起こるなんて。なんていうか、感動した。

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