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五組になって、最初のうちはぶっちゃけると教室に居づらかった。

なんでこんな、学年の途中でクラスが変わるようなシステムなんだろう。

そりゃ、勉強の進み具合に合わせたクラスで勉強した方が効率はいいけどさ。

三学期にもなると、クラスマッチや文化祭や、

それまで一緒に過ごした時間の分、

しっかりとコミュニティができあがっている。

ましてや一組から一気に五組に来た僕は異端だし、好奇の的だ。

それでも、約一年前、いきなり進路を変更させられた時は、

何の知らせもなく家族や中学の先生の悪意に満ちていると感じていたけれど、

今回は自己責任なんだから気分的にはまだマシだ。


「ここで腐らずにどう切り替えるか」と、

ジルエットでじいちゃんがばばあと陽一の事を言っていたのを思い出す。

必死になることもないけど、チャンスと捉えてこっちでも新しい人脈を作ろう。

一組に行きたい気持ちはぐっと抑えて、

授業時間以外も五組で過ごそうと決心した。

それでも、お昼に一人で弁当を食べていると、侘しさに思わず笑ってしまう。

この伊月様が「ぼっちメシ」ですか。

いや、こんなチャンスは一生のうちにそうあるもんじゃないかもしれない。


「あ、ありがとう」


同じクラスの教科係がファイルや資料を抱えて廊下を歩いていたから、

持つよ、と、ファイルを引き受けたら、驚いたようにそういわれた。

そういえば、一年前の自分だったら、

こんな風に少し困った状況の人に気付かなかっただろう。

気付いたとしても、自分から手伝うなんて、絶対にしなかったはずだ。

考えるより先に、自然に、当たり前に荷物を持っていた。

困っている人を見ると手を貸さずにはいられず、

なんでも仕事を抱え込む委員長に鍛えられたせいだと思い当たって苦笑する。

一・二学期の激務を思えば、クラスの手伝い程度、たいした事はなかった。

頼りにされる事も増えた。

せっかくなじんだ頃に、進学なんてちょっと残念なくらいに。


ちなみに、一組の副委員長は、湊が立候補したそうだ。

委員長の修が、「じゃ、僕が」と言い出す前に、

とっととクラス全体に役割を振り分けてしまうという。

僕より数段、優秀な副委員長で心強い。


激動の一年だったと思う。

きっと、これからの一生の中でもトップクラスの。

環境が変わって改めてわかった事はたくさんある。

今思えば、僕も陽一とばばあの引力に囚われていた。

虚勢を張り、殻にこもって周りは敵ばかりだと思い込んでいた気がする。


体育の時間、グラウンドでマラソンなんてやらされて、

クラスのやつらと文句を言いながらだらだらと走る。

寒さにかじかんだ体も徐々に火照って軽くなってくる。

白い息を追って視線を上げると、遠く、

薄い水色の空に上弦の月が浮かんでいた。

月の絵を描けといわれれば、

大抵のやつは夜空に掛かる満月か三日月を描くだろう。

そんな思い込みも常識なんかも素知らぬ顔で、半円の月は昼間の空にある。

月はそこにあるだけで月、それで全部で、他の何でもなくて、

誰かに見られているとかそんなことすら気にもしない。

自分でもよくわからないけれど、すごく解放された気分になった。

マラソンのゴールを通り過ぎて、ゆっくり歩きながらクールダウンする。

弾む息も、全身を慌しく駆け巡る血液も心地いい。

月から、地球はどんな風に見えているんだろう。

僕の事も、見えているんだろうか。

月は、孤独なんかじゃない。僕の周りにもたくさんの星たちがいる。

重力に手を伸ばせば、誰かがその手を取ってくれる。

誰かが僕に光を投げかけて照らしてくれる。

闇夜に迷っても導いてくれる、満天の星のように。


読了、ありがとうございました。


次回からは、『meteor(流星)~side早瀬』が連載開始いたします。

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