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P7

いきなりの指名の上、今日初めて会ったやつらの係りを決めろといわれた。

とんだ無茶振りだけど、委員長、頑張ってね。

先生から渡されたプリントに視線を落す彼に、心の中でエールを送ると、

そのプリントをこちらに差し出してきた。


「これ、黒板に書いてもらえるかな。

 先生、すいません、各係の仕事の内容を教えてもらえますか」


おや。

さっきまでのおどおどとした雰囲気が払拭されて、

落ち着いた、意思を持った目に変わっている。

上から命令するという傲慢さを感じさせず、

それでいて有無を言わせない響がある。

逆らう理由もない。言われたとおり、黒板に係名を書き出していく。


「佐倉修輔です。祥沢二中卒。一年間よろしくおねがいします」


「神崎伊月、リュシオル学院中学からです。よろしく」


書き終えて席へ向かい直ったタイミングで自己紹介をした。

リュシオルの名は、ここでもある程度の意味を持つらしい。

ざわつく教室の雰囲気に、少しだけ、複雑な思いが胸をよぎる。


佐倉の進行は、なかなか堂に入っていて卒がない。

さっきまでの評価は見直さないといけないな。

それにしても、後ろの方の席の戸川ってやつ、

何かにつけてやたらと突っかかってきてムカつく。

尊大でイヤミ。特別だと思われたい欲求と、それが叶わない不満。

一組にいるくらいだから、中学ではそれなりの成績だったのに、

教室の中では下位っていうのがプライドに障るのだろう。

僕たちに向けられているのは、明らかな敵対心と嫉妬。陽一と同じ匂いがする。


みんなが前に出てきて、係を決めるクジに名前を書き込んでいく。

思っていたより、かなりスムーズに決まりそうだ。次は、ヤツの順。


「低成績者は後回しかよ」


ふいに掛けられた攻撃的な言葉に、思わずヤツを睨みそうになる。

いかん、平常心。


「戸川君って、低成績者なの」


すぐ右隣、肩の下辺りから聞こえた言葉に、ぎょっとして振り向く。

気まずそうな、佐倉の顔。うわ、こいつ言い返したよ。


「自分と神崎君以外の順位は知らないんだ。

 クジを引く順番は、前からの方がスムーズそうだと思っただけ。

 ひく順番で損得もなさそうだったから。

 他意はないんだけど、嫌な思いさせちゃっていたら、ほんと、ごめん」


静かに言葉を続けて頭を下げる佐倉と、

怒りと驚きに目を見開く戸川を交互に見る。

席順、気付かなかった? いや、そんなわけはないだろう。

気付いて、あえて知らん振りしたんだ。

言われてみれば確かに、勝手にパターンを予測しただけで確定じゃない。

言われっぱなしで泣き寝入りするのでもなく、押さえつけるのでもなく、

あからさまにぶつかるのでもなく、それでいて、誰が見てもこれは佐倉の勝ちだ。

僕の目の前で、陽一に似た空気を持つ男の顔が屈辱に歪む。

残忍な快楽が胸を満たす。佐倉修輔。こいつ、おもしろい。

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