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いきなりの指名の上、今日初めて会ったやつらの係りを決めろといわれた。
とんだ無茶振りだけど、委員長、頑張ってね。
先生から渡されたプリントに視線を落す彼に、心の中でエールを送ると、
そのプリントをこちらに差し出してきた。
「これ、黒板に書いてもらえるかな。
先生、すいません、各係の仕事の内容を教えてもらえますか」
おや。
さっきまでのおどおどとした雰囲気が払拭されて、
落ち着いた、意思を持った目に変わっている。
上から命令するという傲慢さを感じさせず、
それでいて有無を言わせない響がある。
逆らう理由もない。言われたとおり、黒板に係名を書き出していく。
「佐倉修輔です。祥沢二中卒。一年間よろしくおねがいします」
「神崎伊月、リュシオル学院中学からです。よろしく」
書き終えて席へ向かい直ったタイミングで自己紹介をした。
リュシオルの名は、ここでもある程度の意味を持つらしい。
ざわつく教室の雰囲気に、少しだけ、複雑な思いが胸をよぎる。
佐倉の進行は、なかなか堂に入っていて卒がない。
さっきまでの評価は見直さないといけないな。
それにしても、後ろの方の席の戸川ってやつ、
何かにつけてやたらと突っかかってきてムカつく。
尊大でイヤミ。特別だと思われたい欲求と、それが叶わない不満。
一組にいるくらいだから、中学ではそれなりの成績だったのに、
教室の中では下位っていうのがプライドに障るのだろう。
僕たちに向けられているのは、明らかな敵対心と嫉妬。陽一と同じ匂いがする。
みんなが前に出てきて、係を決めるクジに名前を書き込んでいく。
思っていたより、かなりスムーズに決まりそうだ。次は、ヤツの順。
「低成績者は後回しかよ」
ふいに掛けられた攻撃的な言葉に、思わずヤツを睨みそうになる。
いかん、平常心。
「戸川君って、低成績者なの」
すぐ右隣、肩の下辺りから聞こえた言葉に、ぎょっとして振り向く。
気まずそうな、佐倉の顔。うわ、こいつ言い返したよ。
「自分と神崎君以外の順位は知らないんだ。
クジを引く順番は、前からの方がスムーズそうだと思っただけ。
ひく順番で損得もなさそうだったから。
他意はないんだけど、嫌な思いさせちゃっていたら、ほんと、ごめん」
静かに言葉を続けて頭を下げる佐倉と、
怒りと驚きに目を見開く戸川を交互に見る。
席順、気付かなかった? いや、そんなわけはないだろう。
気付いて、あえて知らん振りしたんだ。
言われてみれば確かに、勝手にパターンを予測しただけで確定じゃない。
言われっぱなしで泣き寝入りするのでもなく、押さえつけるのでもなく、
あからさまにぶつかるのでもなく、それでいて、誰が見てもこれは佐倉の勝ちだ。
僕の目の前で、陽一に似た空気を持つ男の顔が屈辱に歪む。
残忍な快楽が胸を満たす。佐倉修輔。こいつ、おもしろい。