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P65

湊は笑いをこらえるように、ああ、といって続けた。


「戸川はホモ野郎とかいわれているんだ」


「え、なんで」


「ん、そりゃ、修が戸川に、

 お前がそういう願望を持っているから変な想像するんだろ、

 とか言い返したからじゃねえ?」


修は驚いたように、


「違うよ、あれは、自分より成績いい人の点数が悪かったら、

 自分の順位上がるって、湊がそれを望んでいるって、

 卑怯者みたいな言い方したから。

 そんな事を考えているの、

 自分の方だろうって言ったつもりだったんだけれど。

 どうしよう、戸川君に悪い事しちゃった」


と焦っていた。あいつ、みーの事までそんな風に言っていたのか。

てか、修が焦る事ないのに。

クラスでやつがそんな扱いを受けているのは、自業自得だ。

思わず修以外の三人で顔を合わせて笑ってしまった。


「修君って、ほんと、天然。うちのナチュラル・ウエポン、最強」


「戸川の事は、修が気にすることない」


「そうそう、いい薬だよ、良薬口ににがしだよ」


三人でそれぞれいったけれど、

修は心配そうに肩を落として悲しそうな表情をして、

退院して学校で会ったら、謝るという。

あのさ、と、早瀬君が話し始めた。


「別に、誰が誰を好きとか、僕は、偏見を持つ方がおかしい、って思う。

 価値観はそれぞれだし、誰かを傷つけていいって訳じゃないけどね。

 好きになっちゃったら気持ちなんて、

 自分でコントロールできるものじゃないだろ?

 そういうの、少なくともうちのクラスのみんなは、

 わかっているんじゃないかな。

 悪く言われるとしたら、本人の日頃の行いのせい。

 だから、修君が悪いわけじゃないよ、謝りたいんだったら止めないけど」


こんな風に、思っている事や恋愛に関する考えみたいなものを、

早瀬君が率直に話すのなんてすごく珍しい。

もしかしたら、僕に向けて言っているんだろうか、と、少し思った。


病室のドアがノックされて、修が、はいと応えると、

ドアがスライドして、修のお父さんが入ってきた。

修の横顔を盗み見ると、ぴりっと緊張した固い表情に変わっている。

僕たちはこんにちは、と頭を下げて、そろそろ帰る、と立ち上がった。


「すまないが、神崎君、できたら残って、一緒に聞いてくれないか」


修のお父さんから掛けられた言葉は、正直言うとすごくうれしかった。

修のそばにいたかったし、お父さんから直接、言葉を聞きたかった。

はい、とすぐに同意した。

湊と早瀬君は雰囲気を感じたのだろう、

修に、お大事に、気が向いたらメールしろよ、

などといいながら、病室を出て行った。


「具合は、どうだ?」


「少し疲れているみたいだけれど、なんでもないです」


「そうか」


そんなやり取りの後、しばらく沈黙が降りて、

僕はさっきまで湊が座っていた椅子を、彼に勧めた。

修のお父さんは小さく頷くように頭を下げて、椅子に腰掛けると話し始めた。


「母さんから、言われていたのか?

 父さんの本当の子供じゃないと。本当の父親は」


「母さんの、双子の兄だと、聞いています」


修の答えに、病室の空気が一気に冷えた気がした。

修のお父さんは指を組み合わせてうな垂れる。


修の少し震える声が沈黙を破る。


「黙っていて、ごめんなさい。謝っても、許されるとは」


「いや、違うんだ」


遮って、またしばらく黙った後、言葉を続けた。


「そうじゃないんだ、修輔。みんな、私が悪いんだよ。

 長くなるが、はじめから話す。神崎君も、時間を取ってしまって悪いね」


いえ、と答えて、彼の言葉の続きを待った。

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