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病室に入ると、修はベッドの背もたれを起こして、
昨日よりずい分と具合良さそうにしていた。
思っていたより早かったね、一日のんびりしちゃった、というので、
湊と早瀬君も買い物をしてから来る事なんかを話した。
「昨日さ」
一呼吸あけて、修が救急車で運ばれてから、
病院で目を覚ますまでの事をざっと説明した。
なぜ、僕が病院に来たか、
それで、先生や修のお父さんやおばあちゃんとどんなやり取りをしたか。
「修のお父さんが、もしかして修輔は、本当は私の子供じゃないって、
言っていなかったかって。
おばあちゃんも、どういう事なのって驚いていて。
それでも黙っていたら、
まさか修がその話を知っているとは思わなかったって、
本当は誰の子供かっていうのも、聞いているかって。
黙っていても、きっとわかっちゃうって思って、
聞いています、きっと、今まで誰にも話してなくて、
聞いたのは僕だけだと思いますって、言った。
話さないって言ったのに、本当、ごめん」
修は、約束を破った僕を怒っているだろうか。
軽蔑とか、落胆とかしただろうか。
それより、傷ついたり、他人を信用する事に怯えてしまったりしないだろうか。
そう、と言ったきり、哀しげな表情で考えて込んでいる横顔をみていると、
胸が痛んだ。
それからすぐに、湊と早瀬君が来た。
二人は修を心配してはいたけれど、
いつもどおりと言うかどこか能天気な感じで逆にすごく救われた。
湊は書店の紙袋を修に手渡して、
「お見舞い、暇がつぶせるものがいいだろうって話になってさ、
伊月が宇宙とか科学の本がいいっていうから。
すぐに退院するだろうけど」
といった。
修がありがとう、と袋から本を取り出すと、
科学雑誌と小学生向けのガガーリンの伝記だった。
科学雑誌は表紙に書かれている題が、オカルトっぽくて胡散臭い気がした。
ネタとして読むにはいいかもしれないけれど。
伝記はハードカバーで大きくて重そうだから、
ベッドで横になって読みづらいだろう。
それに、本を読みまくっている修だったら、
あっという間に読み終えてしまいそうだし、内容にも目新しい物はなさそうだ。
思わず、
「あんまり疲れなそうな本を買ってきてって言ったけれど、なんだよこれ」
と不満を言ってしまった。
はあ? 文句言うくらいなら自分で買って来ればいいだろ、
と言い返す湊とのやりとりを、困った風に肩をすくめてみせる早瀬君を、
修はとても楽しそうに見ていた。
「クラスのみんな、修君の事を心配していたよ。
これから病院に行くって言ったら、お大事にって伝えてくれって」
「須貝君からも、元気になったら、
またお昼休みにパスの練習しようって伝えてくれって言われた」
「あ、そうそう、そういえば、戸川君」
早瀬君はそういって、続きをどういうべきか、少しくすっと笑って湊をみた。
あいつがどうかしたのか。
修もきょとんと早瀬君と湊を見比べている。




