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P63

ケータイのディスプレイが光って、メールの着信を知らせるメロディが流れる。

焦って軽く震える手で操作してメールを開くと、湊からだった。

「遅くに悪い」というタイトルに少し緊張しながら本文を見て、

一行目の「寝てた。zzz」という文字に思わず笑ってしまう。

病院からの帰り道、修の意識が戻って、

心配ない事などを書いて送ったメールに対する返信なのだろう。

なんだよ、脅かすなよ。

メールサンキュ、修、早く良くなるといいな、お前もちゃんと寝ろよ、

また明日学校で、といった内容だった。

なぜか泣きたくなって、誰も見ていないのに必死でこらえて、

ああそうか、と思って湊に電話した。

キャッチを入れてあるから、もし修から掛かってきても気づけるだろう。


「よう、起きてたのか」


すぐにコール音が途切れて湊の声が聞こえた。


「みー」


名前を呼んで、続く言葉が出てこない。

抑えても、抑えても、涙があふれた。


「どした」


「わかん、ない。みーの、声、聞きたく、なった」


「うん、そっか」


いつもの、少し素っ気ない言葉が、どこか暖かく優しい気がした。


「明日さ、昼、カフェで食わね? 早瀬も誘って」


誰が作ったのかよくわからないものは食べたくないといって、

基本的にはコンビニのお弁当すら食べない、外食嫌いの湊にしては、

すごく意外な提案だ。

でも、みー、と小さく口ごもる。


「ま、たまにはいいだろ。

 この前、カフェの前通ったら、今、スープフェスタとかいうのやってるのな。

 結構うまそうだなって」


「うん」


たまたまかもしれないけれど、もしかしたら、授業の合間はともかく、

長い昼休み、僕が教室に居づらいと思ってくれているんだろうか。

湊なりの、少し不器用な気遣いがすごくうれしかった。

修が心細かったら、頼って欲しい。

もしかしたら、僕が同じように誰かに頼りたいと思った時、

そうしてもいいんだろうか、と気づいたのは、間違いじゃなかったと思った。


電話で話したとおり、昼食は湊と早瀬君とカフェでとった。

あまり食欲はなかったけれど、ミネストローネはじんわり優しく、

おなかと気持ちを暖めてくれた。

今日の午後は、ロングホームルームだけで下校になる。

僕は修の病院に直行するつもりだ、と話すと、二人も病院に行く、という。


「お見舞い持って行きたいんだけど、何がいいかな」


と、早瀬君がいう。お見舞いか、全然考えていなかった。

食べ物は、検査とかするって言っていたし、辞めた方がいいかも。

入院っていっても、そんなに長い期間じゃないだろ?

花は、修、喜ぶかな……?

鉢植えとかは、お見舞いに持って行っちゃだめなんだよね。

え、なんで? なんか、だめ、って聞いた気がする。

意外と難しくて、三人で悩んだ。

ヒマが潰せるような物がいいか、と湊がいう。


「そういえば、修、本が好きなんだよね」


「ああ、いいね。どんなジャンルが好きなんだろ。歴史とか?」


「宇宙とか星とか、好きみたい。あと、科学とか。

 家にはなんたらの定理とかいう本もいっぱいあったけど、

 あんまり疲れない本がいいよね」


早瀬君の質問に少し笑いながら答えると、

まじか、そんな本、読んでるのかよ、でも、ま、修らしいな、と湊がいって、

三人で笑った。

学校が終わって、お見舞いの本は湊と早瀬君に書店によってもらう事にして、

僕だけ先に病院へ向かった。

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