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P6

入学してクラスが決まって、教室の席順表をみて驚いた。

湊が同じクラスで席も近い。なかなかラッキーなスタートだ。

僕は人脈を作るのが好きだ。

最前列だし、とりあえず両隣のやつらと話してみよう。

右、廊下側の隣は三宅隆志、蓬泉中出身。

入学式で新入生挨拶をしたヤツだから、顔を見ればきっとわかるだろう。

見回すと、そいつは教室の後ろの方に3人くらいで集まって親しげに話していた。

内部進学同士か。改めて自分がアウェイだと思い知る。


左隣は。窓の方を見て、思わず息を飲んだ。

彼との距離は2mと離れていないはずなのに、

意識を向けるまでそこにいることに気づかなかった。

自分の席の椅子を引いて机に向かって立ち、窓の外を見ている。

窓からは眩しいくらいの白い光が放たれて、

数回瞬きをしたら、そこに立つ彼は消えてしまうような気がした。

男子の制服を着ているけれど、細く小さい。

身長は160ちょっとくらい?

肩に軽く掛かる長さまで無造作に伸ばした髪、逆光に薄く透けるうなじと顎の線。

なぜだか、胸が詰まって声を掛けるのがためらわれた。

ざあ、と音がして、窓の下のふちギリギリのところにピンクの波が揺れた。

風に煽られた満開の桜の枝。

次の瞬間、窓一面を下から吹き上げられて舞う、無数の花弁が覆う。


彼の名は、確か、さくら。


いきなり隣の席のやつの方に歩き出した僕を、

湊が不思議そうに目で追うのがわかった。


「どうも」


なぜかトリップしそうな意識を無理矢理引き戻して声を掛けた。

それに気付いて、僕の方へ振り返る。

俯きがちな顔を、大きめの黒縁のメガネと、長すぎる髪が隠すように覆っている。

メガネの奥の目は、上目遣いにこちらをみて、

どこか怯えるようにおどおどと揺れる。


「隣の席の、神崎伊月。よろしくね」


「あっと、佐倉修輔、です。よろしく」


なーんだ。

さっきまでの印象はなんだったんだろう。暗い、臆病な、つまんなそうなやつ。

こいつとは友達になれなそうだ。適当にからかってやり過ごそう。

そんな思いを悟らせないように、

得意の貴族スマイルを浮かべながら、席順表に書いてあった字を思い起こす。

佐倉修輔、祥沢二。しょうさわに? なんだ?

疑問を口にすると、湊が、ここの隣の祥沢市の二中の事だという。なるほどね。


その後のHRで、いきなり副委員長に指名された。

それも驚きだったけれど、もっと驚いたのは、その後の担任の椎野先生の言葉。


「すでに説明してあるとおり、この学校は学年の途中でクラスが変わる可能性がある。

 一組は下がる事はあってもここから上はない。

 というわけで、とりあえずクラスが変わる可能性が低いと思われる、

 今回の成績トップの佐倉と二位の神崎に、

 一年間委員長、副委員長を務めてもらう。

 もし二人がこのクラスから移動する事になったら、

 その時また考えるって事で、いいな」


秘かに驚いて、隣に立つ佐倉とかいうやつをちらりと見た。

こいつが、学年一位?

この、ぼさーっとした、いるのかいないのかわからないようなやつが、

この学年で唯一僕より成績がいい?こんなやつの下で一年働けって?

ま、いいや、面倒な事は委員長様に押し付けておけば。

てか、つまり、席順は佐倉から廊下側に向かって3位4位、という並びか?

3位の三宅君が蓬泉中出身者の1位、か。

中学在学中から成績優秀だったとしたら、なるほど、それで新入生挨拶、ね。

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