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P59

「みー」


立ち尽くしたまま声をかけてそちらに顔を向けると、

ちょうど僕の方をみた湊と視線が合う。


「修に、何言った?」


(何もない。湊。僕と、伊月は)


修が湊に縋って、必死に訴えていた言葉が蘇る。


(何も。伊月は、悪くない。全部、僕が)


目を見開いて、驚きの表情でこちらをみている湊の、

制服のジャケットの衿を思い切り強く掴む。


「修に何を言ったってきいてんだよ」


「ちがう」


斜め後ろ辺りから、女子の声が聞こえて動きを止めた。


「戸川君が」


気配に振り向くと、戸川が怯えきったようにおろおろと周りを見回していた。


「てめえか」


ゆっくりと、掴んでいた湊の制服を離して、

やつの方へ歩き出そうとすると、腕をつかまれた。

湊が、いっち、よせ、という。


「ざけんな、てめえ、みー、離せ」


振りほどこうとして暴れても、湊の腕はしっかりと僕を押さえたままだった。

誰かが視界を遮るように立つ。顔をにらみつけると、早瀬君だった。


「だめだよ、神崎、落ち着いて」


落ち着け? これが落ち着けるか。ぎり、と奥歯を噛む。


「早瀬、そこどけ。どけよ!」


「何を騒いでいるんだ。席につけ」


声の方に振り向くと、何かのファイルと自習用のプリントだろうか、

紙の束を抱えた学年主任が立っている。

そちらに気を取られた一瞬、腕が強く引かれて、湊に教室から連れ出された。

先生も、特に引きとめはしない。

そのまま廊下を引きずられるように歩いて、屋上に続く階段を昇らされた。

この先、屋上に出るドアはいつも施錠されていて、

この階段自体、基本的には生徒は昇る事を禁止されている。

他の階段よりも幅が狭く、暗く、目立たない。

踊り場で折り返すように上の階段に進んで、

廊下からは死角になったところで、やっと腕を離された。

荒い動作で階段に座って、何があった? と湊に問う。

数秒沈黙があって、声を落として言った。


「お前等の事、怪しいっていったんだよ。

 ホモなんだろう、って」


それを聞き、目を閉じてため息をつく。


「それで修は、何もないっていったわけ?

 僕だったらあんなやつにいい訳なんてしない。

 今まであった事を、なかった事にするくらいなら。

 修にとっては、保身の方が大事だったってわけだ」


「お前、それ、本気で言ってるのか?」


湊が責めるように言う。


「あのさ、修がどんな思いで、何もないって言ったか、

 少しは察してやれよ。

 あいつ、何ていったよ。

 ほとんど意識が飛んでるような状態で、お前は悪くない、

 全部自分が悪いんだって、そういったの聞いてなかったのか?

 他の誰が、修の事を、自分の事しか考えてないんだって誤解したって、

 お前だけはわかってやれよ」


それと、戸川はもう放っておけ、相手にする事はない、という。


「ふざけんな、あいつだけは絶対許さない」


「許さない、か。で、どうするんだ?

 殴るのか? それですっきり気持ちよくなって。

 それで、修はどうする?

 伊月は悪くない、悪いのは自分だって矢面に立つぞ。お前を守るために」


「みーは立派なんだな。僕なんかよりずっと、修の事わかってるよ」


湊のいう事は、正論過ぎて反論の余地もない。

湊に八つ当たりしたってどうにもならないのに。

自分が情けなくて、情けないからこそ、また八つ当たりが止められない。

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