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ギリギリと胸が苦しくて眠れない夜はこの世の全てを恨み、
いたずらに寂しさばかり募って、自暴自棄になって、
だけれど、修から無邪気に、一緒に帰ろうなんて誘われたり、
ちょっと買い食いをしに寄り道をしたりすると、
何事もなかったようにやっぱりずっとそばにいたいと思ったりする。
持て余す自分の感情に疲れるばかりの毎日だった。
実力テストの答案用紙を見たときは、愕然とした。
範囲は二学期全体だから、前半は何とかなる。
それでも、テスト前に復習したわけじゃないから、
かなり記憶が曖昧になっていた。
学期の後半の部分は、思い出せそうで出てこない、なんてレベルじゃない。
授業を受けた記憶すら蘇ってこない。
英語の構文も、数学の公式も。時間ギリギリまで使って何とか解答欄を埋めた。
実力テストの結果が出た時、
自分で確認するより前に担任の椎野に呼び出された。
テストの順位は218位。
本来なら特進から普通進学コースへ変更になってもおかしくない成績だった。
ただ、特進と普通科は使っている教科書も違う。
三学期を残すだけである事、入学時と一学期の成績がよかった事、
文化祭などでの功績が認められて、
特別措置として、特進コースでは一番下の、五組に編入という事になった、
と告げられた。
冬休みが終われば、もう彼は僕の担任じゃなくなる。
湊と早瀬君と、修とも、クラスメイトじゃなくなる。
自分の招いた結果が、現実味を帯びて背中を冷たくする。
職員室での居心地の悪い雰囲気に小さく頭を下げ、一年一組の教室に戻った。
教室の開けたままのドアから、やたら騒がしいやり取りが漏れ聞こえてくる。
誰かがケンカでもしているような。
不審な思いのまま教室の後ろ側のドアから中を窺うと、
後ろから二列目辺り、ドアから二~三m程のところに、
湊が誰かの背中を抱えるようにしゃがんでいる。
「修!」
その姿を見て、すぐに駆け寄って目の前にひざを付く。
片手で湊に縋り、もう片手は胸を押さえて苦しそうに顔をゆがめ、
額の生え際辺りが汗で濡れている。
修を引き寄せ、抱きかかえるように自分の膝に背中を寄りかからせ、
制服のネクタイを緩めてシャツのボタンを上から二つ外すと、
はあ、と大きく息を吐く。
「みー、先生呼んできて。あと、救急車」
すぐ斜め前にいる湊に向き直ってそう声をかけると、
小さく頷いて立ち上がろうとして、動きを止める。
修が湊の袖を強く握っている。
「びょういんは」
こんな時にまで。
「そんな事、言ってる場合じゃないだろ。みー、いいから」
しっかり握っている修の手を、無理矢理外すかどうするか、
一瞬戸惑ったのだろう、困惑の表情を浮かべる。
ふと気配に視線を上げると、早瀬君と目が合って、
うん、と頷いて、教室の前の入り口近くに設置してある、
職員室に繋がっている電話に向かって話し始めた。




