表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/74

P57

外は相変わらず嵐が続いていた。

修はアルコールの効力もあったのだろう、泣き疲れて、

ベッドに横になるように勧めると、すぐに穏やかに寝息を立て始めた。

しばらく氷が溶けて薄くなった水割りを流し込みながら、

いろんな事を考えていた。

ざざん、ざざん、と波打つように降り続ける雨の音、

強風が建物にぶつかる振動、

夢を見ているのか、時折すんすんとしゃくりあげる修の寝息。

好奇心だけで暴きたい、曝け出させたいと思っていた、修の闇。

知った今、こんなに救いたいと思っても、

どうすればいいのかなんて、何一つ思いつかない。

ただ、せめて、そばにいよう。

修がつらい時、悲しい時、怯える時があったら、

他の誰が戸惑っても、真っ先に手を伸ばそう。

嵐の日でも朝は来る。

修の眠る隣に横になったけれど、結局一睡もできなかった。

カーテンは薄明るく染まっていた。

仰向けに眠っている修の横顔を見ると、

閉じたまつげから、涙が伝って落ちるところ。

少し体を起こして頬に触れると冷たくて、

涙の筋を拭うついでに、手のひらで頬を暖める。

薄く開いた目がぼんやりと僕を見る。


「起きた? おはよう」


同じ手の甲で、反対側の頬も撫でると、ゆっくりと静かに目を閉じる。


「悲しい夢でもみた?」


ううん、海の中にいた、と、半分まだ寝惚けているように言う。

潜水艦? というと、ふふ、と笑った。


眠くはなかったけれど、頭の中が酸素不足みたいに重く、ぼんやりした。

大きなマグカップにカフェオレを作ってテレビをつけると、

どのチャンネルもほとんどが台風関連のニュースだ。

湊からメールに返信が来る。

一連のやり取りも、過ごす時間も、修はどこかぼうっとしたままだった。

昼前くらいになって、二人で並んでカーテンを開けて外を見ると、

まだごうごうと風は強かったけれど、雲の切れ間から青空が見えていた。


「台風、いっちゃったね」


「うん」


やっと目が覚めたように、

そろそろ帰らなきゃ、と僕を振り返って笑顔をみせた。


翌日、学校で会った時、お世話になりました、とお礼を言ってくれて、

少し気まずそうに戸惑う態度をみせたけれど、

湊や早瀬君と台風の事なんかを話し始めると、

その雰囲気も消えていつも通りに接する事ができた。

数日して、今までどおりの友人として接したい、と告げられた。

急に変わりたかったわけじゃない。不安にさせるつもりもない。

修がそれを望むなら、それが一番いい。

けれども、実際の修は、決して「それまでどおり」じゃなくなった。

ぼんやりする事が多くなり、不安そうに僕に甘える素振りを見せたと思うと、

急に避けたり、距離を取ろうとしたりする。

恋の始まりみたいに、幸せそうに穏やかに笑ったと思うと、

怯えて周りの全てを拒絶する。

後から思えば、心を解放し始めていたんだろう。

行きつ戻りつつ、少しずつ戸惑いながら。

けれどその時の僕は、修がこのまま壊れてしまうんじゃないかと不安になって、

その態度の変化にいちいち振り回された。

眠れなくなって、精神が荒れた。

先生やクラスのやつらのちょっとした事に突っかかった。

勉強になんて、とても集中できるような状態じゃなくなった。

湊に「何があった」と問い詰められたけれど、修の事を言えるわけがない。

八つ当たりするようにケンカ腰で拒絶した。

課題を全く提出していないそうだな、と、担任からも呼び出された。

授業中の態度もよくないようだが、

このままテストの成績が芳しくなければ、来期はクラスが落ちるぞ、と。

あんなに、そばにいると決めたのに、

いっそ、離れた方が修のためにもいいんじゃないのだろうか、とさえ思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ