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P53

修は弱々しく頭を振ってうな垂れながら言う。


「頭では、わかっていたんだ。

 本当は、おじいちゃんも、おばあちゃんも、ちゃんと愛してくれているって。

 だけど、それは僕が二人を騙しているからで」


苦しそうに言葉を止めると、涙が頬を伝って落ちる。

これが、断絶の原因。そう思い込む何か。

来ないで、と、助けて、がせめぎ合っているのだろう。


「修、ちゃんと話してみて」


頭を激しく横に振って、ローテーブルの上に突っ伏す。


「修」


「言えない」


「だめ」


「言えないんだよ」


「話せっていってるだろ」


「だめなんだよ。知れば伊月だって絶対」


「絶対、なんだよ。人の事勝手に決めるな」


「嫌な思いさせる」


「したっていい」


テーブルから顔を上げて、真っ赤になった目で僕を見る。


「嫌な思いなんて、したっていいんだよ。

 修の事、知りたいっていっただろ。

 とりあえず、吐き出すだけじゃだめか?」


ゆっくり体を起こしながら、数度瞬きをする。

ごくり、と何かを飲み込む。

顔が強張って、水割りのグラスに伸ばした指先が小刻みに震えている。

そこまで、怯えるような事なのか。


「いや、あの。本当に、言いたくないんだったら、無理にとはいわないよ。

 ごめん。でも、それで少しだって楽になるなら」


引こうとする僕に、小さく笑顔を見せてくれる。

目も唇もかすかに震えている。


「この事は、誰にも話した事なくて。

 あの、言わないでくれるかな。他の誰にも」


「言わない。絶対」


ふう、と息を吐いて数秒目を閉じ、

立ち上がって学校から持ってきた自分のビニール袋を探る。

よれて少し古びた水色の封筒が見えて、中から一枚の写真を取り出し、

じっとみてから僕の方に差し出した。

手にとってその写真を見る。一見、ごく普通の親子の写真。

がっしりと優しそうな、三十代後半くらいの男性に、

色が白く、ぱっちりとした目の、利発そうな幼稚園児くらいの男の子。

その中で、母親らしいやわらかいウエーブの長い髪の女性に、

目が釘付けになる。


「僕が五歳か六歳頃の写真。

 一緒に写っているのは、父さんと母さん。そっくりでしょ」


うなずいてもう一度写真に視線を落としてから返す。

もし、修がこれから女性として数年成長したら、

まるっきり写真の彼女と同じようになるだろう。

ここまでそっくりな親子も珍しい。

修の様子は、さっきから比べたらずい分落ち着いているようだ。

しばらく無言の後続いた話は、怒りで目の前が暗くなるほどひどいものだった。

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