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「あ、あのさ、何か、飲むものある?」


飲むもの?

予想外の言葉に、冷蔵庫の中身やキッチンのストックを必死でたどる。


「飲むもの……えっと、ミネラルウォーターと、お茶と」


そういうと慌てたように頭を横に振る。ああ、飲むものって、そっちか。


「水割りにしておこうか」


立ち上がって適当にスコッチのビンとカットの入ったタンブラーを用意する。

普段は酒を水で割るなんて、と思っているけれど、

修はアルコールに慣れていない。

酒の力を借りようというのだろう、前後不覚になるほど酔う必要はない。

少し気分が落ち着けばいい。

氷を多く入れて薄めに作ったそれを修の前に置くと、

ありがとう、いただきますといって両手で包むようにして少しだけ口をつける。

同じようにグラスを傾けると、カランと氷が鳴る。


「文化祭で、バイオリンを弾いた時」


静かにたどたどしく、修が話し始める。


「生まれて初めて、生きていてよかったって、

 この時間が終わる事、いつか死んじゃう事を、もったいないって思ったんだ」


そんな事、生まれて初めて?

じゃ、今までは。僕の驚きに気付いたのか、ふふ、と笑う。


「この前、一緒に土星をみた日。

 少なくとも僕が覚えている中で、初めて誰かに抱きしめられたんだ。

 んと。うまい表現がみつからないから、変だったらごめん」


「飾った言葉も、格好いい言葉もいらない。思いつくまま言って」


そこから、修の本音を感じたい、と思った。

少し安心したように言葉を続ける。


「触れられるって、すごく幸せなんだって思った。

 キス、した後、自分はこのままでもいいのかなって、

 そんな風に思ったのも初めてで、髪を切ろうと思った。

 眼鏡を外して学校に行こうって思えたのも、伊月のおかげなんだよ。

 湊や早瀬君や、学校中のみんなのおかげでもあるけれど、やっぱり」


そこまで言って、はあ、と肩を落とす。

酔いがまわり始めているのかな。それとも。

迷うような様子に、じっと言葉を待つ。


「僕は、生まれてきちゃいけなかったんだ。

 今だって本当は、生きていちゃいけない。

 誰かに愛される権利も、価値もない。

 それでも、伊月と出会って、友達になって、

 死んじゃうのがもったいないって思えたんだ」


思っていた以上に、強くてひどい言葉だった。何て事を言うんだ。


「何でそんな事いうんだよ。

 生まれてきちゃいけないのに、生まれてくるわけないだろ。

 修のおばあちゃん、すっごく修の事大事にしてるし、

 唯ちゃんだって修の事大好きだし。

 話、聞いただけだけど、おじいちゃんだって。

 湊や早瀬君だけじゃないよ、学校のやつらだって、

 修に助けられているところいっぱいあるし。

 こんなに必要とされてて、みんなに愛されてるやつ、他にそういないよ。

 あのさ、飼っている犬が不安そうだからって理由で、

 一晩中慰めているようなやつが、生きていちゃいけないってなんなんだよ。

 そんなわけないだろ」


堪えきれずに、つい強く言い返してしまう。

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