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修のベッドで目を覚ました。
修は、床に布団を敷いてそこに寝ていたんだけれど、
起き上がってみると、布団は空だった。
時計を見ると、六時少し前。外から人の動く気配がする。
カーテンを静かに開けて窓から見下ろすと、
庭の畑に、パジャマにカーディガンを羽織った修と、唯が見えた。
サッシを開けると、修が気づいてこっちをみあげる。
「おはよう、起きた? 早いね」
「うん、おはよう。そっち行っていい?」
「うん」
窓を閉めて、足音を忍ばせて階段を降りて庭に出た。
畑にはいくつかの野菜が植えてあった。
「トマト、採る?」
修の問いに、うん、と答えて、差し出されたカゴを受け取った。
僕の胸ほども高さがあるプチトマトの林がある。
真っ赤なのだけね、と笑いながら言って、少し離れたところへ歩いていく。
真っ赤なの、か。
よく見ると、赤黒っぽいほど熟れているものもあるし、大きさも様々。
オレンジ色っぽいのもある。
葉や茎に触れるとちくちくして、青臭い、トマトの香りがちゃんとした。
しゃがんで葉っぱの裏側を覗くと、真っ赤なのがいくつか採れた。
ちょっと夢中になってより熟していそうなプチトマトを探していると、
唯ちゃんが近付いてきてカゴの中を覗こうとしている。
お、食べる? 犬ってトマト食べるのかな。
これあげたら、修との仲、応援してくれる?
将を射ようとするなら、馬からっていうんだよ。
いや、君は馬じゃなくて犬だし、修を弓で射たりしないけどさ。
心の中でそんな事を言いながら唯ちゃんをなでたりしていると、
くすくす笑いながら修が戻ってきて、カゴの中を見て、
おっけ、ありがと、家の中に戻ろう、と言った。
採ってきた野菜をどうするのかと思っていたら、
なんと、修が朝ごはんを作ってくれた。
茄子のお味噌汁と、卵焼きと焼き鮭、
僕の採ったプチトマトを添えた野菜サラダ、あとはおひたしとか胡麻和えとか、
そういうのはおばあちゃんの作り置きだそうだけど、
どれもほっと安心できるような、素朴な薄味でおいしかった。
昨日遊んでいた時に撮った唯ちゃんの写真を、
湊と早瀬君にメールで送っておいた。
その返信が来ていたので修に見せた。
二人とも唯ちゃんが人間の女の子で修の本当の彼女だと思っていた、
犬なの? と書いてあって、
修が、え、なんで、そんな勘違いを? と素で驚いていたので笑ってしまった。
食後にコーヒーを飲んでしばらくまったりと話をして、
修と唯ちゃんに駅まで送ってもらった。
日曜日のお昼前の電車は、時間もゆっくり流れているように感じた。
ことんことんという振動に揺られて、いろいろもう、脱力だった。
明日からまた、いつもの日常が続いていく。