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家の中もきちんとしていて、暖かい。

ふとみると仏壇があって、人格者らしい男性の写真が飾ってある。


「あれが、おじいちゃん」


穏やかに笑いながら、修が教えてくれる。

お線香を上げさせてもらっていい? と聞くと、蝋燭に火を灯してくれた。

おばあちゃんは、凛として格好いい素敵な人だと思う。

修にバイオリンを教えてくれて、細倉さんの先生だったというおじいちゃんは、

どんな人だったんだろう。

お会いしてみたかったです、と心の中でつぶやく。

お茶を出しながら、おばあちゃんが、泊まっていってといってくれた。

なんの用意もしてこなかったから驚いたけれど、

修もそうしてくれたらうれしい、という。


暖かくて楽しい夕食だった。家族っていいんだなって感じた。

先にお風呂をいただいて、修がでてくるのを待つ間、おばあちゃんが話してくれた。


「修輔は、高校に入ってから、本当に明るくなりました。

 こうしてお友達を連れてくるのも、実は初めてなんです。

 それで、私もうれしくて、いきなり泊まっていけだなんて、

 無理を言ってしまいましたね。

 あの子は事情があって、幼い頃から私と、あの子の祖父で育ててきました。

 優し過ぎるほど優しくて、不器用な子なんです。

 伊月さん、修輔と仲良くしてくれて、本当にありがとうございます。 

 こんなお願い、年寄りの世迷言と思われても仕方ないけれど、

 どうかこれからも、あの子と仲良くしてやってくださいね」


「はい」


修には、こんなに大事に思ってくれる人がいる。


修の部屋で話すことにして、二階へあがった。

ドアを開けて、思わず固まってしまった。

視界を埋め尽くすのは、ほぼすべて、本。


「修、あの、これ、全部」


困ったように笑って頷く。

ほとんどが事典のような本、宇宙の写真集、

○○の定理がわかる本、なんていうのも多い。

別な本棚に視線を移すと、そっちは問題集がぎっしりだった。

もしかして、これ全部やったのか。

いい? と聞いて一冊手に取ると、修はノートを取り出して開く。

僕の持っている問題集をみて、合わせたページを開き、

ノートを並べるようにみせてくれる。

同じ問題が写され、解かれ、注意点や気づいた事などが余白にメモされている。


「その辺は、ひと通り終わったやつ。今やってるのは、この辺り」


手にしていた問題集を戻して、修が指したあたりのものを一冊抜き取る。

まだ授業でやってないよねというと、追い越しちゃった、と笑う。

いやいやいや、うそだろ。なんだよこの勉強量。


「これでも小説とかは余程気に入ったもの以外、

 参考書も範囲が過ぎたらなるべく処分するようにしているんだけど」


「はあ、納得。塾も家庭教師もやってない修に、追いつけないわけだ」


どれだけの忍耐力と集中力だろう。敵うわけがない。


「宇宙の本も多いよね、好きなの?」


と聞くと、クッションを貸してくれて、

ローテーブルとベッドの間に座るように勧めてくれた。

世界の様々な事を知ること、そのために本を読む事は、

おじいちゃんが勧めてくれた、という。

修の根源を築くもの。立派で力強く、崇高な考えだと思った。

宇宙の星について話す時、修は夢中になって、子供のようだった。

こんな顔をするんだ、と思った。

ずい分長い時間を一緒に過ごしてきた気がしていたけれど、思えばまだ半年。

星が好きな事も、飼い犬をこんなに愛している事も、

部屋が本だらけな事も、修の暮らす街も家も駅も、初めて知ることばかりだ。


「地球って、どれくらいの速さで動いているか知ってる?」


ううん、と首を横に振る。メモを取り出して、書きながら説明してくれる。

自転の速さが時速1666km、

公転が時速10万km、秒速が約30kmだという。

とてつもない数字に想像がつかない。

地球は太陽の周りを一年かけて一周します。それは誰でも知っている事。

なんとなくイメージで、車の速さくらいかなって思っていた。

実際、地球が太陽の周りを回る軌道の距離は、九億4千万km近く。

過去も、これから未来もずっと、三六五日かけてその軌道を辿り続けている。

その移動速度が、一秒間に30km?

修は、そう考えると、いろんな事が遠すぎてなんか笑っちゃう、という。

そうだね、笑うしかない。

呆然としていると、星を見に行こう、と立ち上がった。

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