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P43

ドッグランで、ゆいちゃんは楽しそうに遊んだ。

ただ走ったり、他の犬に近付いたりする事の何が楽しいのかは、

正直理解できないけれど、それでも本当に楽しそうだった。

遊びながら、たまにこちらを見る。

修が手を振ると、にっこりしてまた遊びだす。人間の子供と一緒だ。


「犬って、しっぽで感情がわかるって聞いた事あったけど、

 顔の表情でもわかるんだね、初めて知った」


修はおかしそうに笑って、


「怒られそうな時はしゅんとするし、

 嫌な時は、あーもうサイアクって顔するし、

 恥ずかしい時は誤魔化そうとしたりするよ」


と教えてくれた。


「今日は、すごく機嫌がいいよ。伊月がいてうれしいみたい」


「え、ほんとに?」


犬にだって、好かれたらうれしいなあ。

公園の周りには、桜の木がたくさん植えてあった。

今はもちろん、枯葉がいくらか残っているだけ。春に満開になれば見事だろう。

また、修と初めて会った時の事を思い出す。

細い後ろ姿。光に透けていた髪。

なぜか胸が詰まって、話しかけられなかった、あの時。

もしかしたら、あの時から予感があったんじゃないだろうか。そうきっと、


「初めて会った時からずっと、」


僕の思考に修の言葉が重なってどきっとする。


「伊月のことが好きなんだ」


「え」


そういう修の横顔は穏やかで、優しい眼差しで前を見ている。

僕に振り返って、笑いかけて、


「さっきから、遊びたそうにしてる」


といって、再びドッグランに視線を戻す。唯ちゃんがちらりとこちらを見る。

あのさ、修、わざとやってるよね?

動揺と脱力を悟られないように少し俯いて体を硬くする。ああ、もう。


「よし、遊ぼう!」


思い切り立ち上がると、修もうなずいて、

バッグから少し汚れたボールをとりだし、

「ゆい!」と大きく声を掛けてボールを投げた。

自棄になって遊びまくって、へとへとになって笑った。


修の家へ向かう道は、とてもきれいな住宅街の中にあった。

住んでいる人たちのセンスや、思いやりや、

常識なんかがちゃんとしているんだろうな、と思えた。

ここ、という修の言葉に、彼の家を見た。

周囲の家と比べると、少し小さめだけれど、その分庭が広く取ってある。

門の前から玄関にかけて、手入れの行き届いた花壇がある。

しっくりとした、センスのいい、居心地のよさそうな家だった。

庭の隅に畑があって、そこに修のおばあちゃんがいた。


「ただいま」


「おかえりなさい、伊月さん、いらっしゃい」


「こんにちは、お邪魔します」


「伊月から、おみやげをいただいたんです」


ごめん、本当は唯ちゃんに買ったんだったけれど。

人間用のお菓子は、犬は食べられない、よね。

わざわざそんな事をいう必要も無い。


「まあ、気を使わないでいいのに。お茶を淹れましょうか」


おばあちゃんのうれしそうな様子に、ちょっと罪悪感が湧く。

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