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二十時少し前だった。泣いたらちょっとすっきりして、修にメールを送った。
「件名・ごめん
本文・ちゃんと謝りたいんだけど、これから会えない?」
修に、会いたい。直接声を聞きたい。
ほとんど待たずに返信が来た。
どきりとして、メールを開くのももどかしく、そわそわと読む。
「件名・Reごめん
本文・こっちこそ言いすぎた。
今日は早く寝たくてお風呂も済ませちゃったから、また明日学校で。
おやすみ」
視線は何度も文字をたどって、全身の力が抜けた。
絵文字のない文章は、修の感情を伝えてはくれない。
修は建前も本音もない。ここに書かれている言葉は本心なのだろう。
けれども、どこかよそよそしく、儀礼的にも感じた。
件名も、僕が送ったまま、というのも、面倒で手を抜いた? と思えた。
わかったのは、今夜は会う気がない、という事だけ。突然涙がこぼれる。
ケータイを操作すると、画面に「佐倉 修輔」という文字と、
修のケータイの番号が表示される。
通話ボタンがどうしても押せない。
もし、これから寝るって言っていて、実は彼女と会っているんだとしたら?
彼女を悪く言う僕を、二人で何ていっているだろう。
どうしちゃったんだ自分は。こんな女々しい事を考えるなんて。
何もかも疲れて吐きそうだ。
気付けば、修に電話をして不自然じゃないような時間はとっくに過ぎている。
カーテンを引いて夜空を見上げる。月も出ていないし、星もあんまりみえない。
修。会いたい。
朝日が昇って街が動き出すと、夜のぐるぐるは悪夢みたいに消えた。
考えたってどうせなるようにしかならないのに、
なんであんなバカらしい事を延々考えていたんだろうという気になった。
寝不足と考えすぎでぼうっとする頭で学校へ行く。
おはよう、昨日は言いすぎちゃってごめんね、という修は、いつもどおりだった。
いろんな事を許したいと思った。
週末、みーは予定があるけれど、会わない? というと、
うれしそうに了承してくれる。
「いつか、唯ちゃんにも会ってみたいな」
修の彼女なら。
「いいよ、じゃ僕の家の近くの駅で待ち合わせって事でいい?」
「え、いや、今週? いきなりお邪魔じゃない?」
「大丈夫。唯、喜ぶよ」
相手の都合も確認しないっていう事は、元々会う予定だったのだろう。
しかも、それがあって、僕とも会う約束をしたって事は、
特別な事情があるというわけでもなく、今週は友達と会うから、と断れる程度の。
会うことが当然だから会う、という。
そして、友人に紹介するのにも了承を得ず、勝手に約束できる、絶対の信頼感。
本当に近しい者にだけ、できる行為。
どんなに落ち込んでも、嫉妬しても、敵わない。修の特別は、彼女なんだ。