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「いい子? すごく邪魔な子じゃなく?
一晩中泣かれて付き合うなんてまともじゃないだろ。今日だって学校なのに」
「いっち」
少し怒ったような湊の声に、言葉を止める。修は少し悲しそうな顔でいう。
「昨日はたまたまだよ。
確かに、唯が寂しかったり不安だったりしたら、ほっておけない。
でもそうやって僕に甘えてくれたり、なにか手がかかったりしても、
唯を邪魔だなんて思ったことないよ」
修の彼女なら、きっといいやつなんだろう。
僕は修ほど彼女を知っているわけじゃない。
だいたい、あのままの彼女を修が好きだったとして、何の問題がある?
僕がとやかく言えることじゃない。なのに、止まらない。
よりによって、なんで、あんな。
「そんな面倒くさいやつじゃなくてさ、修だったら、もっといい子いるでしょ。
そんなのとっとと捨てて、新しいの探せば」
吐き捨てるように言う僕に、先に反応したのは湊だった。
「いっち、いい加減にしろよ、なに突っかかってんだよ」
「いま、何ていった? 捨てろとか新しいのとか」
怒りに震える修の声に、気まずくて視線をそらす。
いきなり制服の肩の辺りを掴まれて引かれた。驚いて修を見る。
「唯の代わりなんていない。唯より、大事なやつなんて。
あいつの事何も知らないくせに」
なんだよ、それ。そんなに唯が大事か。涙が溢れそうになる。
修の手を振り払って、荷物を掴むと教室を飛び出した。
マンションでぼうっとしていると、湊が来た。
「何を、修に突っかかってんだよ」
言葉が出ない。しばらく沈黙が続く。
「どうすんの?」
「どう、って?」
湊の言葉に、問いで返す。
「お前が、どうしたいかって事」
何が言いたいんだ。もしかして、こいつ。
「前に」
以前から疑問に感じていた事を聞いてみよう。
「いい加減な手で、修に触るなって言ったよね。
この部屋に来る女との事、隠せって。あれ、なんで」
湊は、ああ、といって視線をそらして続けた。
「別に、たいした意味はない。
修はそういう事、知りたくないだろうなって思っただけ。
あいつは何て言うか、女とどうこうとか、そういう事に。
んー、なんか、だめなんじゃないかと思う。これも、トラウマレベルで。
直接聞いたわけじゃないけど」
「不潔、とか?」
「そんな感じかな。普通の、恋人とかそういうのじゃなく、遊びで、とか。
潔癖なのかな」
湊の言葉が珍しく歯切れが悪い。そっか、と曖昧に答える。
「あのさ、修とダチとしてやっていきたいんなら、
謝っておいた方がいいと思うぞ?」
わかってんだろ? という。やっぱり、気付いていたのか。
うん、と言った途端、涙がこぼれた。
「みー、頭でわかってても苦しいんだよ。いつか、消えんの? この痛みも」
そのまま、テーブルに突っ伏して声を殺して泣いた。
湊は、いつもよりずっと遅い時間までいてくれた。