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月曜日、学校に行くのは気が進まなかったけれど、休むわけにもいかない。
修はなんとなく体調が悪そうで、
ふらっとしながら、おはよう、と声を掛けてくれた。
あんな思いをしていたのに、たった一瞬姿を見ただけで、
声を聞いただけで、何もかもが帳消しになってしまう。
なんなんだよ、これ。
そんな僕の気持ちとは裏腹に、バカみたいな秋晴れのいい天気だった。
湿度の低い風がさらりと教室に入ってくる。
授業中、教師が僕と修の机の間の通路に立った。
とん、と木を指先で叩く音に振り返ると、いかにも寝起きです、といった目で、
驚いたように修が顔をあげた。
「居眠りとは余裕だな。
文化祭はとっくに終わったんだし、ちゃんと切り替えろ」
教師の揶揄するような声に、すいません、と真っ赤になって俯く。
そんなに調子、悪いのか?
いつものメンバーで昼食をとる。
と、修がふわ、と両手で口元を隠してあくびをした。
「寝不足か? 修が授業中に居眠りなんてめずらしいな」
「うん、昨日ほとんど寝てなくて」
湊とのやりとりも、なんだかぼんやりしている。
修が眠れなかったなんて。心配して聞く。
「何かあった?」
「夕べ、ゆいが。いや、なんでもない」
また、ゆいか。
「えー、言いかけてやめるなよ」
むかむかが収まらなくて、つい責めるような口調になってしまう。
「ごめん、やっぱりちょっと寝ておく。これじゃ午後が辛いや」
そういいながら、湊と僕の机と寄せておいた自分の机をがたがたと戻し、
メガネを外して机に突っ伏した。
早瀬君も気になったようで、からかうように、
「寝かせてもらえなかった?」
と聞くと、
「うん、朝までなかれて。昼休み終わったら起こして」
といって、窓際の方へ顔を向けて、そのまま眠ってしまったようだ。
早瀬君がヒュー、と、やるね、というように短く口笛を吹いた。
一晩中、泣いているあの女を慰めて? どんな言葉で、どうやって?
精神状態はもう、限界に近かった。
HRも終わり、ほぼ無意識に帰りの支度をしていた。修がまた、
「もう打ち上げっていうのには時間が経っちゃったかな?
でも、せっかくだから今週末に何かしない?」
といい始めた。ぴくり、と体が硬直する。
湊は予定があるからパス、という。
修は僕に向かって、じゃ、また今度にしようか、と声を掛けた。
「修だって忙しいでしょ」
「別に予定はないけど」
「彼女にまた、さみしいって泣かれるかも」
きょとんとする修に、ついトゲを含んだ言い方をしてしまう。自分が嫌だ。
「彼女って、唯の事? だったら大丈夫だよ。すごくいい子で」
あいつが? かっと感情が沸騰する。