P37
次の日は、文化祭の片付けをした。
あんなに必死に準備したから、捨ててしまうのはもったいない気もするけれど、
もうそこにあるのは不用品でしかなかった。
喪失感と虚脱感。
想い出に浸れば先に進めない気がして、ただ教室を元に戻す事だけを考えた。
自分の感覚さえ意識せずにいたせいか、
昼休みに昼食をとっていると疲れがどっと襲ってきた。
あー、なんかぱあっとしたいなあ。
「ね、今週末、金土日って三連休だろ。なにか打ち上げみたいなことしない?」
その場にいた、湊と修と、早瀬君に声を掛ける。
三人ともいいね、と賛同してくれた。
「金曜日は予定があるから、土日なら。
用事があるのは午前中だけなんだけれど、できれば午後も一緒にいたから」
一緒にいたい?
修の言葉にちょっと引っかかって、茶化すようにカマを掛けてみた。
「お、修、もしかして彼女とデート?」
「ま、そんなとこ。最近忙しくてあんまり遊べなかったし。
そろそろ機嫌とっておかないと」
え。
彼女がいるなんて初耳だけど。
湊も、
「いや、そういえばそういう話、した事なかったけど」
と、ぽかんとした風に言う。ちょっと待って、え、まじで?
「ね、どんな子? 名前、なんていうの?」
軽く、必死になってしまった声に、昼休み終了のチャイムが重なる。
修は、普通の週末の予定でも話すようにさらっと、
「名前はゆい。唯一の唯、漢字一文字で、ゆいだよ。
あ、土日は特に予定ないから」
と、机を戻して午後の片付けを始めた。
ゆい。唯。あいつか。
修は覚えていないかもしれないけれど、一度会っている。
一学期の、多分クラスマッチの少し後くらいだ。
買い物があって、修と一緒に駅前まで行った。
僕たちの学校の最寄り駅の周辺には学校が多い。
小中高校、少し離れているけれど、大学のキャンパスも二つ。
なので、登下校の時刻、駅前は学生でごった返す。
「あっれー、さくらー?」
大きな声で呼びかけられて、修が振り返った。
「ああ、西田さん、久しぶり」
派手に化粧をして、髪を脱色し、大きなピアスをつけ、
制服をだらしなく着崩した女子高生。
この制服は確か近隣の、あまり評判のよくない私立女子高のものだ。
「えー、佐倉、超かわってないんだけど。それ、ほーせん? まじうける」
なんだそれ、日本語か? 蓬泉の何がおかしい。
つか、こいつ人類か?
サルがシンバルを叩くおもちゃみたいに両手をばちばち合わせて、
キーキー笑っている。
修は少し驚いたように、西田さん、お化粧しているの、といって、
さらにげらげら笑われていた。
「さくらさー、またメールしようよ、まじいいキャラしてるしさ。
いじりがいあるっていうかー」
そんな失礼な事を言われながら、平気な様子で、
そう、わかった、楽しみにしているねとにこにこ答えて別れた。
誰? と聞くと、同じ中学の子で、自分が生徒会長だったときの、副会長、
中学で一番仲のいい女子だったんだ、
すごく雰囲気が変わっちゃって驚いたよ、という。
その下品な女が、一緒にいた女からゆいと呼ばれていた。
打ち上げより、あいつの機嫌を取るのが優先か?
どろりとした感情に、内側から焼かれそうな感覚に囚われた。




