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文化祭の準備は着実に進んでいった。

とてもタイトなスケジュールだったけれど、クラス全員の協力がありがたい。

このペースなら何とかなりそうだ。

あと一週間、というその日の朝、急なトラブルが飛び込んできた。


「文化祭の講堂発表の担当、誰だ?

 一組は参加とも不参加とも報告がないから、一応枠は取ってあるけれど、

 内容と参加者を報告してもらわないとプログラムが作れないから、

 早くしてくれって急かされたんだが」


担任の椎野の言葉に、クラスがしん、とする。

え、あれって、不参加って事じゃなかったっけ。

「早瀬」という誰かのつぶやきに早瀬君の方を見ると、同じように、

えー、でなくていいんじゃ? って感じの戸惑ったような表情をしている。

いいよね、一年だし、クラスの方でこれだけ気合入れているんだし。


「すいません。

 文化祭の準備のプリントに書いてあったのをちゃんと見て知っていたのに、

 今まで失念していました。みんなもごめん、全然、頭になかった」


青ざめた顔をして今にも切腹しそうな勢いで謝る修に、こっちがびっくりした。

思わず、


「いや、修、待って。僕も知ってた。

 後で適当に決めればいいやって、最悪、不参加でもいいんだしって軽く考えて、

 すっかり忘れてた。ごめん」


と、庇ってしまった。けどさ、いや、これ以上の負担は無理だって。

でも、とりあえず全員の意見を聞く形にしておいた方がいいだろう。

反論するやつがいたら、そいつに丸投げすればいい。

報告は今日中にすればいいらしい。お昼休みに話し合いの時間を持つ事にした。


昼休みまでいろいろ考えてみた。確かに時間はなさすぎる。

でも、これって全校生徒の前で目立つチャンスじゃないか?

一年生で代表の発表に参加するクラスは少ない。

けれど、チャンスは三年間の三回だけ。

これを逃せは、来年までチャンスはお預けだし、

その時、他に枠を使いたいって言いだすやつが出ないとも限らない。

一年で名前を売っておけば、その先三年間注目されるかもしれない。

おいしいよなあ。

問題は、当日体が空いているのが僕と修、

あと、シフトで確認すると、協力してくれそうなのは湊くらいか。

早瀬君は実行委員だから、本部のシフト次第。

なんかできるものがあるといいんだけどな。


話し合いでは、やっぱり誰もが参加は無理だろう、という意見で一致した。

諦めるのはいつでもできる。夕方までに報告すればいいんだ。

いらない時間なら任せてくれないか、とクラスのみんなに了承を得て、

修と湊と早瀬君を呼んだ。

湊は、シフトは空いていたけれど、妹と弟を案内する約束になっているといって、

そっちを優先してもらう事にした。動けるのは他の三人。


「早瀬君って、なにかそういうところでできる事ある? 特技とか」


何かあるだろう。彼みたいなタイプは、きっと何か一芸に秀でている。

少し考えるように俯いて、


「中学では吹奏楽やってて。

 コントラバス担当だったんだけど、家ではチェロ弾いてる。

 あんまりうまくない、と思うけど」


と答えた。チェロか、いいな!


「伊月、あの」


修のあきらかに引きとめようとする言葉を遮って、勢いよく考えを話した。


「僕と修はバイオリンがいける。この編成ならなんとかなるね」


伊月ならまだしも、無理だとごねる修を強引に説得して、

三人でアンサンブルを発表する事に決めた。

中学の時、陽一の誕生パーティにみんなの前でバッハを弾いた事を思い出す。

今回も、あの時の高揚を味わえるといいんだけど。

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