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P30

「そのいい加減な手で修に触るな」


瞬間過ぎった湊の声に、そのまま修に触れられなくなった。

息をつめて向き直り、距離を取ったまま修の寝顔を見る。

無垢な寝顔ってこういうのをいうんだろう。ただひたすらに眠っている。

そういえば、このベッドでもしたんだった。

そこにこうして、修が清らかそうに眠っているのが、

なんだかとても申し訳ない気がした。

いや、シーツは洗ってあるけれども。やっぱり何となく、何となく不潔な気がして。

自分の手のひらを見てみる。

あのまま修に触れていたら。いや、やっぱり違う。この瞬間は特別だ。けど。

何ヶ月か、何年か経ったら、

もしかしたら同じような感覚の記憶に紛れてしまうんじゃないだろうか。

他の、ゲームの景品みたいなキスと。

じゃ、どうすればいい? ずっと修に触れちゃいけないのか?

てか、なんで湊はあの時、修の名前を出した?

考えは同じところを何度も繰り返して、空が薄っすら明るくなるまで眠れなかった。


衣擦れのような音を聞いた気がして目を開けた。寝不足か、目の奥が重い。

それでもやっと目を開けると、天井を見る修の横顔があった。


「しゅう?」


「起きた? おはよう」


そっか、夕べは修が泊まったんだった。

浅い眠りの中で、いくつも夢を見た気がする。


「夢、いろんな夢、たくさん見た気がする」


そういって重い、いつまでもぼやけて焦点を結ばない目をこすると、

その手をきゅ、と握られた。

え。

握った手を離さず、自分の方へゆっくり引き寄せようとしながら、


「こすっちゃだめだよ」


と、軟らかく微笑みながら言う。

思い出した。さっきまで見ていた夢。

いや、でも、これは絶対、修にだけは絶対にいえない。


「なんだっけなあ、全然思い出せない、まあ、いいか」


動揺を隠して視線をそらしながらそう誤魔化すと、くすくす笑っている。

ヒトの気も知らないで無邪気に笑いやがって。

まだずっと一緒にいたかったけれど、

修のおばあちゃんが早く帰って来いと怒っているらしい。

まあ、夏休みとはいっても、まだ講習もあるし、会おうと思えばいつでも会える。

それより、一人で落ち着いて考えたい気もした。

とても穏やかな気持ちで、エントランスまで下りて修を見送った。

真っ青な空に、アスファルトから立ちのぼる、夏の熱気。

今日も暑くなりそうだ。

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