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P29

もう少し話していたかったけれど、修の眠気が限界のようで、

話の途中で数度、かくんと頭が落ちる。

子供か。笑っちゃ悪いけれど、寝ようか、と声をかけると、

半分寝ているように、うん、と応える。

修にはベッドを使ってもらってソファで寝ようと思っていたけれど、

思い切って、一緒でいいよね、というと、これも別に戸惑う風でもなく、

うん、とうなずきながら、のそのそとベッドを反対側まで這って行く。

ベッドは部屋の中央に置いてあるから、どちら側からでも出入りできるのに。

寝惚けて効率のいい判断ができていないのだろう。

普段のしっかりした修のそういう様子がおかしくて笑いを押し殺しながら、

続くように修の通り過ぎていったベッドの手前側に体を滑り込ませた。

体を横たえて振り向くと、仰向けで、もう、くうくうと寝息を立てている。

よっぽど眠かったんだな。

しばらく寝顔をみていた。長いまつげ、白い頬を薄く縁取る産毛。

額に掛かる少し乱れた前髪に指先でそっと触れると、

ん、と一瞬顔をしかめて寝返りを打ち、こちらに向きを変えて、

掛け布団をもそもそと肩まで引き上げる。

カーテンの隙間から差し込む青白い月光が、

頬と唇の辺りだけ切り取ったように細長く照らす。

モノクロの世界に、その唇だけが瑞々しく紅い。

何の前触れもなく、思い知る事実。

本当に? いやでも。間違いじゃないか? こんな事、なにかの。

ぐるぐる問いかけても、もう見てみぬふりはできない。

これは、恋愛感情だ。

そんな、うそだろ。

胸を満たす愛おしさを否定しようとしても、感情が喜んでしまう。

やばい。好きだ。

月の光のラインに沿うように頬をそっと包むと、

薄く開かれた唇が、ふと微笑みの形になる。

その引力に抗えない。ゆっくり、唇を近づける。

寝息が掛かるくらい近い。多分、あと数センチで。

はっと、動きを止めて、ベッドが軋まないようにゆっくり体を離して背中を向けた。

深く眠っているから大丈夫だろうけれど、

荒い呼吸を気取られないよう掛け布団を引き上げる。くそ、湊。


ここに越して来てすぐ、ハウスキーパーだという女性が尋ねて来た。

「初めて」の彼女にどことなく似た雰囲気の人だった。

そっか、と思って、すぐ「そういう関係」になった。

親父の好みなのかなあ。

こっちで変な女に引っかかって、面倒な事にならないように、って所だろうか。

彼女は基本的に僕が学校にいっている間に家の事をしておいてくれるから、

会わない日がほとんどだけれど、

何日かに一度くらい、当たり前みたいに家にいて、おかえり、と迎えてくれて、

そのうち数回に一度くらい、当たり前みたいに、した。

夏休みになって湊と修がちょくちょく家に来るようになると、

当然二人とも鉢合わせる事が数度あった。

修は、こんにちは、とお行儀よくにこにこと挨拶をしていたけれど、

湊は何か勘付いたようだった。

ある日、あんまりいい加減にちゃらちゃらするのは控えたらどうだ、と言われた。

湊のいう事を総合すると、本当に好きになった人ができた時、後悔する、

というような事だった。

なんだそれ。

恋愛と性欲処理は別な話だろ? 変なところで難いやつだ。

全く聞き入れる気がなかったから、適当に流していると、

ムキになっていろいろ言ってきた。

なんでこんなに必死になるんだろう。

ふと思いついて、湊もする? といったらマジギレされた。

俺の妹に会っても話しかけるな、という。

はあ? 友人の妹、しかも中学生になんて、そんな気、起こすわけないだろ。

呆れて反論すると、それと、そのいい加減な手で修に触るな、

あの女との事も知られないように全力で隠せと吐き捨てるように言う。

なんで修がでてくるんだよ。

本気で言っている意味がわからなくてバカにした態度を取っていたら、

それから数日、話しかけても事務的な返答しかせず、目も合わせず、

修のいないところでは徹底的に無視された。

さすがに堪えて、少なくとも二人の前では彼女との態度に気をつけるようにした。

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