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テイスティングの時は、いつでもプレゼントを開ける時のようなわくわく感がある。
なんだ、とがっかりする事が多かったとしても、
そのわくわくはいつでも心地よく好奇心を刺激して気分を高揚させてくれる。
香りを楽しんで、ひと口含む。さすが。これはアタリだ。
「ワインは苦手なんだよ」
そういって、子供の頃、祖父に面白半分でワインを飲まされて、
半日寝込んだ話をする。
何してるんだか。微笑ましいエピソードにおもわず笑ってしまう。
「まあ、今日は僕の誕生日をお祝いすると思って」
そういうと、渋々、残しちゃったらもったいないから、少しだけにしてと、
困ったように了承する。
これは、余程体質に合わないというのでもなければ、
悪酔いさせるような安酒じゃない。
大丈夫だと思うけどね、と返して、だけれど無理をさせるつもりもないから、
二口分くらいだけグラスに注ぐ。
悪酔いした想い出の時以外では初めてワインを飲んだというのに、
修はなかなかいい舌をしている。
もっといろいろ教えたくなる。
じいちゃんも僕に、そんな風に思っていたんだろうか。
うっとりと酔う修に、甘えてみてもいい気がした。
「小さい頃からずっと」
いつも外した事のなかった、「可哀想な僕」作戦。使えるものは最大限に使う。
「家族は、誰も僕の事好きじゃなくて。いない方がいいって感じで。
細倉さんだけは、僕の事を気にしてくれて。優しくしてくれて。
大好きだったんだけど、ここ何年か、なんでかな、つい意地張っちゃって。
またこんな風に、話せると思わなかった。
誕生日を、一緒にお祝いしてもらえるなんて。修のおかげ。本当に、ありがとう」
お互いの酔いと、ワインの香りと、囁くような声。
大抵ここでキスくらいはいける。
修相手に、さすがにそれはないけど。
うるんだ目で、うん、と微笑む修と、もう一度グラスを合わせた。