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P24

穏やかな会話。学校の事や、この店の事。そんな小さな、お互いの日々の事。

離れていた間の細倉さんの事。出会う前の修の事。

会する三人の歴史が溶けて重なっていく。

その中で、細倉さんが中学時代、修のおじいちゃんの教え子だったと判明した。

先生はご健在ですか、と問う細倉さんに、一瞬口ごもって、


「祖父は他界しました、三年前に、事故で」


と、寂しそうに微笑んで返した。

おばあちゃんとずっと二人暮らしだと聞いている。

修のおじいちゃんと会った事さえない僕でも胸が痛むけれど、

細倉さんの落胆は大きかった。


「私は、中学の頃、荒れていましてね」


そう話し始めた細倉さんの思い出話に、僕も修も驚いた。

不良だった細倉さんを、熱血教師だった修のおじいちゃんが、

県外の、僕のじいちゃんのところに就職するように世話をしたんだという。

そして、細倉さんが荒れていた頃通っていたというのが、修の出身中学と一緒。

世間は狭いって言う。僕を介して知り合った二人の不思議な繋がり。


「細倉さんは先輩ですね。

 祖父母もそこで教師をしていたといっていたので、そうかと思って」


「そうでしたか、おばあさまももしかして知っている先生かもしれませんね」


「祖母は、旧姓を宮内といって、音楽の先生だったそうです」


「え、佐倉って雪絵ちゃんと結婚したの!」


しんみりと感動しながら二人のやり取りを聞いていたので、

いきなりそういって立ち上がった細倉さんに、すごく驚いてしまった。

普段の細倉さんだったら、客の祖父母を呼び捨てにしたり、

音をたてていきなり席を立ったりなんて、絶対にしないだろう。

修もぽかんとしている。

そんな僕たちを見てさすがに我に返って、あ、いや、余りにも驚いてしまって、

大変失礼いたしました、とナプキンでしきりに額を拭っている。

修と目が合って、堪えきれずに噴出しそうになるのを必死に抑えた。


「よし、乾杯しよう、先生達の結婚と、ホソクラの失恋を祝して」


「失恋も祝しちゃうの」


「大人への一歩だろ。ついでついで」


「この年になっても大人への修行ですか」


苦笑する細倉さんがおかしくて、笑いながら三人で乾杯、と、

水の入ったグラスを合わせた。

細倉さんは、


「お二人のご結婚と、やがて生まれ来る、われわれの友人に」


と、修に向かっても改めてグラスをあげた。

誰かが出会って、新しい命が生まれる。

そんな当たり前の事が、奇跡みたいに思えた。


「宮内先生は、たおやかで明るい先生で。

 男女問わず人気があって、私もずい分憧れたものです」


「そうだったんですか、僕にとっては、ちょっと意外です。

 どちらかというと、祖父はあまり怒ったりしない人でした。

 本気で怒ると怖かったけれど、そういうのは数えるほどしかなくて、

 だいたい、おおらかで。

 祖母は厳しかったですね、三文安といわれないようにと、

 それこそ箸の上げ下ろしまで」


「さんもんやす、って何?」


僕の問いに、二人がちょっと顔を見合わせて困ったような表情を浮かべる。

あれ、知らないとおかしいような事だったか……?

軽く動揺していると、修が教えてくれた。


「お年寄りって、子供を甘やかしてなんでもやってあげちゃうから、

 わがままで何もできない子になっちゃう。

 それで、若い親に育てられた子より、価値が三文安いって事らしいよ」


修が、わがままで何もできない子? そんなわけないだろう。

妙にいらっとして、


「いろんな家庭の事情があるのに、ひどい事いうなあ」


と反論した。

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