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修と湊を必死に誘ったけれど、湊は外食が嫌いだといってあっさり断ってきた。
修も突然の誘いに、持ち合わせがあんまりない、とか、
着替えを持って来ていないとか、いまいち乗り気じゃなさそうだった。
また次の機会にしようというのを、食事ならおごるし、着替えも貸すから、と、
半ば強引に食事につき合わせる事に成功した。
修を無理矢理誘っておいてこういうのは悪いけれど、
最初は、湊が帰っちゃって修と二人きり、なんて、なんとなく気が乗らなかった。
湊もいたら、もっと楽しいのに。
二人だけで話したりって、思えばほとんどなくて、会話が詰まりがちだったり、
気を使ったりする事になるかも、と思うと、ちょっと不安な部分もあった。
先にシャワーを使ってもらって、その間に修に貸す服を適当に出すつもりだったのに、
自分でも予想外にその行為に夢中になってしまった。
クラスマッチの時、初めてメガネをかけない修を見た。
はっきりいって、僕は自分の顔が好きだ。
陽一のキモイ顔と比べているからかもしれないけれど。
でも、修は別格。すごく僕好みの顔だった。
なのに、あの日以降、さりげなくメガネはない方がいい、髪もちゃんと切ったら、
と言っているのに、全く聞き入れようとしない。
顔がコンプレックスなんだか、何があったんだかは知らないけれど、
もったいない事この上ない。
でも今日だったら、服に合わせるから、とかうまく言えば、
ちゃんと髪を整える事を了承してくれるかもしれない。
こんなチャンス、そうないだろう。
「お先に……って、何してるの」
時間にして15分から20分程度だろうか、
修が髪をタオルドライしながら戻ってきた。
何って、服を選んで。ふと視線を向けて硬直してしまった。
何してるの、は、こっちのセリフ。
修に、シャワー後にとりあえず着ていて、と渡した服は、
僕の普段の部屋着で、裾が長めのTシャツに短めのハーフパンツ。
背が低い修が着ていると、だばっとした短いワンピースの裾から、
ちらっとパンツの裾がでているようになっている。
そこからみえる足は、高校生男子のものではない。
元々体毛が薄めなのは気付いていたけれど、すらりと細く、白く滑らかで、
筋肉とか骨が太くがっしりした「大人の男」といった雰囲気がまるでない。
肘も二の腕も、華奢で軟らかそう。お風呂上りの上気した肌と濡れた髪。
それが、パーツでみると男らしさがないのに、全体として組み合わさると、
決して女性っぽいというわけではない。
なよっているのとも違う。
むしろ、昔のお侍さんのような、凛とした姿勢のよさと、少年の体格。
アンバランスでありながら、不思議と調和の取れた四肢。
動揺を気取られまいと、我ながら妙なテンションで服を押し付けた。
Tシャツの上からあれこれ試着してもらう。
乾いてきた髪から、うなじから、普段使っているシャンプーやボディソープが香る。
その、倒錯。なんなんだよ、修は、男だからね。
「あーーーもーーーー、だめだ、先にシャワーしてくるから、修も選んでて!」
叫ぶようにそういって、シャワーに駆け込んだ。
最初に思っていたのより、ずい分と時間が掛かってしまった。
部屋に戻ると、服がある程度片付けられて、
待ちくたびれたような修の、遅いよ、という表情が迎えてくれた。
誰のせいだと思っているんだよ。
風呂場での自らの行為に、羞恥と罪の意識を感じて、心の中で八つ当たりをする。
そういえば、修もするのかな。そりゃ、そうか。
なんだかもう、色々どうでもよくなって、
修に貸す服は、はじめの頃に第一候補に挙げていた服に決めた。