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P14

その試合はフルセットまでいったけれど、結局負けてしまった。

悔しさより、やるだけやったって気持ちの方が強い。

クラスのみんなもどこか穏やかに、さっぱりした雰囲気だった。


総合成績は17クラス中14位。

正直、ビリかなと思っていたから、それよりは少しマシだった。

なんだかおかしくて、発表された時、みんなで笑ってしまった。

閉会式が終わって、他の生徒はみんな帰れるけれど、

クラス委員と実行委員は片付けに残らなければならなかった。だるすぎる。

各クラスの委員長は全員、連絡事項があるとかで、大会本部に集合していたので、

修だけおいて観覧席の荷物をまとめに行った。

だらだらと帰り支度をしているみんなに向かって、湊が声を掛けた。


「なあ、これから実行委員は片付けに残るんだけど、

 大丈夫なやつは手伝って行かねえ?

 修もあんまり具合よくないみたいだし、少しでも人多かったら早く終わるし」


言葉の最初のうち、えーって顔をしていたやつらも、

ああ、そっか、それなら、って表情に変わっていった。

答えを待つわけでもなく、湊はいうだけいって観覧席から歩いていってしまった。

僕もその後についてアリーナに降りて、修と合流した。

2,3人残って手伝ってくれるだろうか。まあ、あんまり期待はできない。

僕だったら、絶対帰るし。

パイプ椅子を畳んで修と運んでいると、クラスの女子が修に近付いて、

持っていた椅子に手をかけた。

修はそれを渡すのを拒んで2人で何か話している。


「あれ、実行委員じゃなかったよね、手伝わないで帰っていいんだよ?」


「佐倉君、調子悪いんでしょう?

 前に、私が教科係で荷物持ちきれなかった時手伝ってくれたし。

 おあいこ、おあいこ」


きょとんとする修から、ほぼ強引に椅子を奪って運び始める。


「無理しないで片付けるフリとか、していたらいいよ。

 みんなでやったら、早く終わるしね」


彼女のその言葉に、修が振り返って驚いたような表情を浮かべる。

僕も倣って体育館を見回すと、真紅のTシャツのやつらがかなりの人数視界に入った。

見えるだけでも1組のほぼ全員が残って片付けを手伝っているようだ。

なんだ、これ。なんで、こんな事が。

きっかけはもちろん、湊が声を掛けたからだ。

けれど、無視して帰ったって誰も責めはしないだろう。

残って手伝っても、なんのメリットもない。

修は具合が悪くても、それを理由に片付けをせずに帰れといったって、

聞き入れるやつじゃない。

ならば、少しでも早く片付けて帰してやろう。

前に助けてもらったから、手伝ってもらったから、

いつも、頑張っているのを知っているから。

そこにあるのはただ、純然たる好意だった。

比べるのもおかしいけれど、リュシオルじゃこんな事、絶対に起こらないだろう。

その場にいることさえ誇らしく感じて、修に声を掛けた。


「これってさ、修効果だよね」


「なにいってんの」


そんなはずないでしょ、というように、呆れた風に笑う修に向けて、言葉を続けた。


「いや本当だって。言ったでしょ、こういうのが、修のすごいところなんだって」


うれしそうな笑顔を残して、小さく俯く。

さっきまで感じていた疲れやだるさは、心地いい倦怠に変わって、

ほんの少し残っているだけだった。

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