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P13

開会式にはずい分遅れたと思ったけれど、

2、3年生がだらだら集合していてぎりぎり開始前だった。

先生にはうまく言っておく、何て言って、湊は、

「神崎が下痢したので、佐倉が付き添っている」と報告したんだそうだ。

ち、湊め。全く、僕の高貴なイメージを何だと思っているんだ。

修は、おなかを壊したのは自分だと庇ってくれた。

一年一組は全体の一番端の列。

校長先生の話を聞こうとすると、ほぼ横向きに座る事になる。

肩が触れない程度のすぐ隣で、きちんと体操座りをして膝をかかえる修を、

少し斜め後ろから盗み見る。

目に頬に、わずかに疲労の色が見えるけれど、痛みは落ち着いているようだ。

今、一体何を考えているんだろう。


男子バレーボール、一回戦は余裕で勝てた。

練習したとはいっても、まだまだ下手だと思っていたし、

一組の他の競技はほぼ全滅状態だったから、

正直、あっさり勝てるとは思っていなかった。

二回戦の相手は、七組。

勝ってあがって来たチームというだけあって、強敵だった。

一回戦で決まりまくっていた湊のスパイクが、あっさり拾われてしまう。

湊がいうのには、七組はバレーの経験者が多く、

中でも湊のスパイクを拾っているのは、県内で知られた名レシーバーなんだそうだ。

チームに諦めモードの、暗く冷たい雰囲気が漂う。

悔しいけれど、まあ、仕方ないよね。うち、一組だし。

途中のタイムアウトの後、数回のサーブ権の移動があって、

セッターとしてトスをあげていた修が、二打目で相手コートへボールを返した。

拾えないほど変なレシーブだったわけじゃない。

湊にトスあげないで、何をしているんだろう。不審な思いでボールの行方を目で追う。

ふわ、と飛んでいったボールは、

相手コートの名レシーバーが守っているはずの場所に静かに落ちた。

なんであんな普通の場所に、誰もいないんだ?

彼は、コート後方、サーブを打つ位置で呆然と立ち尽くしている。


「ナイスジャッジ!」


湊の声が聞こえて振り向くと、修とハイタッチをしている。

なるほど、修は相手コートの選手の動きを見て隙を突いたってわけか。

未経験者で、初めてに近い試合で、よくそこまで見れたものだ。

修の様子に意識を向けると、

わざとらしく相手コートのさっきのポジションの選手をちらちらみている。

向こうもそれに気付いて動きが硬くなっている。

試合の勝ち負けはもういいや、やっぱり、おもしろい。

そう思うと、テンションがあがってくる。

対戦相手とのチームの雰囲気が逆転し始める。


湊がすっと修に近づいて、何かを言った。

僕が前衛で、修の様子を気にしていたからなんとなく気付いたってくらい、

ほんの一瞬の事だ。

二人で須貝君を見て、アイコンタクトを取る。

何をする気だ? 数回、普通にラリーが続く。

さっきのは気のせいだったのかと思い始めたとき、

チャンスボールを修にパスした須貝君が、そのまま修に向かって駆け出した。


「Aクイック!」


相手コートの誰かが叫ぶけれど、須貝君のスパイクの方が早い。

テレビのスポーツニュースで見た事がある。

自分で試した事なんて、もちろんないけれど、

そう簡単にできるものじゃない事くらいわかる。

審判のホイッスルを待たずにコートサイドから起こった悲鳴のような歓声と、

うな垂れて立ち尽くす相手チームの選手。

単なる「1点」以上の効果が、そこにはあった。

いつの間に練習したんだよ。こんな、派手で目立つ事、気持ちよくて大好きだ。

試合再開しようと、みんなが守備位置に戻る間、あがりまくったテンションのまま、

隣に立つ修に、コート全体に聞こえるくらい大きな声で呼びかけた。


「修、みんなに手くらい振ったら?」


それくらいのサービスがあってもいいはずだ。

いつも目立たないようにしている修は、どんなリアクションをとるだろう。

みんなの期待の視線が集まる。

修は、驚いたように一瞬固まって、手のひらを肩の辺りまであげて、

戸惑いながら小さくひらひら、と手を振った。

ええ、何この、小さな子に「しゅうちゃん、ばいばいは?」と言った時のような素直すぎる反応。

コートサイドで応援してくれている女子が嬌声をあげながら「委員長、かわいいいい!」と叫ぶ。

僕も思わずコートにひざを付いて倒れこむ。


「やばい、うちの委員長が可愛すぎる」


芝居がかってそういうと、


「い、伊月が手を振れっていったんだろ」


と、真っ赤になって抗議する。本当に、僕と湊と同じ年かよ。可愛いなあ。

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