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ドアが開いて、湊の姿が見えた。
「ここだったか、って、どうした」
僕の隣にしゃがんで、修の顔を覗き込む。
修が、ドアの向こうの気配を気にしている。
とりあえずそっとドアを閉めながら、「すごく具合が悪いみたい」と、湊に告げる。
「立てるか? とりあえず救護室に行こう」
修が、湊の言葉にも首を横に振る。
「嫌だっていうんだよ。修が、治まるからって」
そう話す間に、それまで強張っていた修の肩から、
すう、と力が抜けるのがわかった。大きく息を吐いて、
「ごめん、もう、大丈夫だから」
と、ゆっくり瞬きをする。
「一応、救護室いっておいた方がよくないか?」
湊の言葉に、小さく微笑んで首を横に振り、体を起こして、建物の壁に寄りかかる。
「大丈夫だから、二人は先に開会式に行って」
「何、言ってるんだよ、具合悪い修、一人置いていけないよ」
その時、開会式が始まるので全員集合するように、というアナウンスが流れた。
開会式なんてどうでもいいけれど、修は気にするだろう。
「先に行って先生にうまく言っておく。いっち、修を頼む」
湊の言葉にほっとして頷く。
湊は自分の首に掛けていたタオルを修の膝の上に置いて、廊下へ戻っていった。
修はそのタオルを少しみつめてから数回折り畳み、顔を覆うように押し当てた。
「修、あの、よくあるの?」
タオルで顔を隠したまま数秒間を開けて、
「たまに。本当に、たまに」
という答えが返ってくる。
「ごめん」
ゆっくりタオルを外しながらこちらを怪訝そうに見る修に、
観覧席から修が走り去ってから湊に言われた言葉、
今、この場所に至る経緯を簡単に話した。
「僕が、気に障る事を言っちゃったせい?」
薄く微笑んで小さく首を振る頬に、唇に赤みが差している。
「伊月が悪いんじゃないよ。褒めようとしてくれたんでしょ?
戸川君にも怒ってくれて。ありがとう。こっちこそごめん。
びっくりしたでしょ」
気遣ってくれる様子は、いつもの修だ。
ほっとして、けれど、まだ完全には安心できなくて、
どこかに異変や不審なところがないか探りながら話を続ける。
「無理しないで、立てそうになったら行こう」
「いや。やっぱり、伊月だけ先に行って」
「遅れたって大丈夫だよ。みーが先生に言ってくれてるし」
「そうじゃ、なくて」
ぴりっとした、それまでとは違う、意固地な響きに口をつぐむ。
修の放つ空気が変わる。これは。