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P10

「いっち、修の様子がおかしかったけど、何があった?」


「何って。今日はメガネしてないし、雰囲気が違うって、

 せっかくきれいな顔しているんだから、いつもそうしていればいいのに、

 みたいに」


話すうちに、湊の目が険しくなってくる。


「どうしたの?」


「いっち、ちょっと」


ずんずん階段を昇って行く湊の後を追う。

クラスのやつらから少し離れたところで、振り返って僕に向かい、早口で告げる。


「修、探すぞ」


「え、何? 確かに様子、おかしかったけど」


湊は僕の問いに一瞬口ごもって、続ける。


「よくわかんないんだけど、修、顔の事言われるの、だめらしい。

 多分、半端ないトラウマレベル。探した方がいいと思う」


さっと背中が冷たくなって、さっきの修の怯えたような目と、

青ざめて凍りついた表情が過ぎる。

観覧席を横切り、一階の廊下へ続く階段を駆け降りる湊の後を追う。


「俺はこっちと、玄関から外の方見てくるわ」


「じゃ、僕はこっちの廊下、行ってみる」


湊と別れて、たくさんの生徒でごった返す廊下を見回しながら走る。

トイレ。いない。

別なドアをのぞくと、数人の生徒と先生がバレーボールのネットや、

点数ボードの準備をしている。いない。

廊下に戻ってさらに先へ進む。

突き当りのドアを開けて外に出たところに、

うずくまる真紅のTシャツの人影が見えた。


「修!」


傍らにしゃがんで様子を見ると、右手で胸の辺りを苦しげに掴み、

左手で自分の口を押さえている。

その手の甲を、怯えた目から溢れた涙が伝っている。


「どうしたの、待って、すぐ誰か呼んで……」


立ち上がって廊下に戻ろうとすると、左手首を強く掴まれた。

驚いて振り向くと、口を押さえていた手を地面について、

膝立ちで進んで廊下へ続くドアを閉める。


「なんで、だって、病院に」


どう考えてもこんな状態、普通じゃない。

なのに、激しく頭を振って僕の手首を掴む手に力を込める。

苦しげにきつく目を閉じて、再び左手で口を押さえる。

声が漏れるのを抑えているのか。それに気付いて愕然とする。

そこまでして、なぜ隠そうとする?


「修……」


どうしよう、このまま修をここにおいて誰かを呼びに行った方がいいだろうか。

でも、目を離して、またいなくなりでもしたら。

判断できずに、いたずらに時間が過ぎてしまう。


「……さ、まる、から。お、さまる、から」


少しだけ力が抜けた様子で、喘ぐようにそういう。

治まる?発作に慣れているんだろうか。

言葉を聞けた事で少しだけ落ち着いて、修につかまれていた手首を外し、

そっと背中を撫でた。


「痛いの? 大丈夫?」


浅く早い呼吸で、ぐったりとしながら、

肩に寄りかかるようにゆっくり体重を預けてくる。

細い。制服というものは、だいたい体型を隠すような造りになっている。

それでも、普段の制服姿の修は細く、小さなイメージがあった。

今、僕の腕の中に納まる彼は、そのイメージ以上に華奢だ。

なんで、こんなに。儚げな頼りなさに動揺する。

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