プロローグ
多くの人が見ている会場で、その場をさらに盛り上げようとするアナウンスの声が響き渡る。
『さぁ! 今日でいよいよこの大会のチャンピオンが決まろうとしています! Aコーナーにいるのはここまで大きな大剣で勝ち続けてきた、優勝候補でもある【漆黒の死神】! 対するBコーナーはこの大会が初出場にも関わらず、未だに傷を負ってすらいない【虚空の追撃者】だぁ!!』
ワアァァァァッ!!
会場が盛り上がると同時に、フィールドに二人の選手が登場した。
片方は、自分の背丈の二倍はある大剣を背負った、黒いコートをまとった男。
もう片方は、帽子を深くかぶっている為顔がよく分からないが、どこにでもある私服で出てきた人だった。
『ここまで勝ち抜いてきた二人の実力は皆さんの知っての通りだ! はたしてどんな白熱としたバトルを見せてくれるのか! それではレディ……ファイトォォォォ!!』
黒いコートをまとった男は大剣を構えると、試合開始早々から相手に向かって距離を詰めた。それを迎え撃つかのように、手元に小さな筒のような物をまるで手品のように出したかと思うと、そこから光線を出して作り上げたセイバーを使って迎え撃つ。
「『加速!』」
男がそう叫ぶと、とたんに男の動きが最初よりも早くなった。そしてその様子をモニターで映している画面では【漆黒の死神】と書かれた名前の下にあるゲージが、全体の十%が減った。
『おーっと!? 技を最初に繰り出したのは【漆黒の死神】だぁ! 動きが早くなったにも関わらず、【虚空の追撃者】はかるーく受け流しているぞぉ!!』
アナウンスの言うとおり、【虚空の追撃者】は相手の動きが突然早くなっても動じずに冷静に避けたり、攻撃を流したりしている。
それにイラついてきたのか、【漆黒の死神】はいったん距離を取って体制を整えようとする。
だが……。
「『超威力型・デストロイキャノン』」
【虚空の追撃者】がそう静かに呟いたとたん、目の前にさっきまで使っていた筒がたくさん現われたかと思うと集結し、巨大なレーザー砲を撃った。
「な……!? く、『阻め』!」
避けられないと判断した【漆黒の死神】は大剣を地面に刺して巨大な壁を作り上げた。【虚空の追撃者】が繰り出したレーザー砲を受け止めたが、代わりにその場から動けなくなっていた。
その隙を狙って、【虚空の追撃者】は【漆黒の死神】の後ろに回り込み、持っているセイバーを心臓部分に背中から突き刺した。たったそれだけの動作で、モニターに表示されている【漆黒の死神】のゲージは一気に無くなり、零となった。
『な、なんとぉぉぉぉっ!? 【虚空の追撃者】が出した大技は囮! それを受け止められると同時に後ろから直接の攻撃が見事に当たり、優勝を掴み取ったあああぁぁぁぁ!!』
モニターに大きく、【WINNRE・虚空の追撃者】と出た所で、動画は終わりを告げた。