表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

また後で!

作者: f
掲載日:2026/08/01


「もーまじ最悪!」


湿気で巻いた髪は広がり、アイラインの太さは左右で違う。

萌はスマホに映る自分を睨んだ。


「ねえあかりぃこの前髪まじやばくね?!」


シュン、と耳もとに何かが走り、背後で何かが弾ける。


「危な!まじ何してんの」


砂埃が舞う廃工場では怒声が響き渡っている。

あかりは倒れた男から足をどかし、靴底についた血を床に擦りつけた。



「三郎行かん?」

「行く。ニンニクマシマシするわ」

「よっしゃ!手伝う?」

「もう終わったから大丈夫」


あかりがポケットから鏡を取り出す。

鏡を覗き込みながら前髪を整えていた萌は、ふと思い出したように上を向く。


言いづらそうにすこし唇を窄め、ネイルをカチカチと鳴らす仕草にあかりが目線を送る。

「なんかさぁもうさ、疲れちゃったくね?」

迷うような仕草とは裏腹に、その瞳は前を向いている。


「もしだよ?もし、あたしが全部やめたいって言ったらどうする?」

「え…やめようよ。全然あり。終わりでよくね?全部置いてこーぜ」

あかりはまつ毛を直しながら、なんでもなさそうに言った。


「ニンニクマシマシ、野菜マシ、アブラマシ」

油と汗の匂いが充満する小さな店には、太った男が2人と無駄にテンションが高い店主がいて、その中の女2人はとても目立っていた。


「えー、じゃあどうする?」

「食べたらどっか行こ」

油で光る唇を舐めて満足そうに息を吐き出す萌は、スマホを少し眺め、まだ野菜とスープが少し残る丼に落として元気よく退店の挨拶をした。


「つーかうちら金ないんだった」

小さな公園の片隅。

ボロボロのベンチに2人はいた。


「そうだよ。財布置いてきたしどこも行けないじゃん。小学生かよ」

ポッケに100円入ってたわ、と月に翳しながら萌はあかりの肩に頭を乗せる。

「…どのくらい持つと思う?」

静かな声が住宅街に広がり、溶けていった。


どこかでちりんと風鈴の音が鳴る。

「…一週間じゃね?」

あかりの声はいつも通りからりとしていて、萌はそれが嬉しくて目を瞑った。

「一週間は無理っしょ」

「確かに。じゃー3日?」

「無理無理!明日で終わるわ!」

あはは、と笑うその声は本当に楽しそうで、丸々とした地域猫がにゃあんと泣いた。


「甘いの食べたくね?」

「あり。てかアイス食べたい」

「コンビニいこ」

「スーパーのが安いっしょ」

「じゃースーパーで。あースマホないと探せないやーん」

「まあどっかしらあるっしょ。歩こ」


スマホも財布もない。

2人の頭上にはまあるい月が変わらず光っていた。


「あれ、閉まってるじゃん最悪」

「まじで終わったー!歩きすぎて足パンパンなんだけど?!」

「えー、今食べたかった」

「明日また来よ!」

「だるすぎ」

2人は笑って来た道を引き返した。


眠りについた住宅街に、笑い声がいつまでも響いていた。

スマホも財布もない。月だけがそこにある。

それでも、この夜は不思議なくらいよく笑った。


それから、いくつか夜が過ぎた。


銃声が重なる。

視界が白く弾け、体は燃えるように熱い。


ずるり、と背中に落ちる重さを支え切れず倒れ込む。


「…まだ起きてる?」

「…なんとか。けどもう、…普通に、眠い、やばい」

「もういいっしょ!」

「先寝る…」

「おけおけ!じゃあ、また後で!」

萌が笑う。

つられてあかりも少しだけ笑った。


乾いた音が夜に響いた。


そしてもう一つ。



まあるい月はいつもと変わらず夜を照らしている。

どこかで丸々とした地域猫が小さくにゃあんと泣いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ