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見なくていいものを見る力

 探偵という仕事は、真実を暴けば終わりだと思われがちだ。

 だが実際は、その先のほうが長い。


 依頼は解決した。証拠も揃っていたし、推理に穴もなかった。

 誰がやったのか、なぜやったのか。すべて説明できた。

 それでも、部屋の空気だけは最後まで重かった。


 救われた人間は確かにいた。

 だが同時に、救われなかった人間も、確実に存在していた。


 ――その一人が、俺を殺した。


 背後から刃物で刺された瞬間、痛みよりも先に理解が来た。

 ああ、そうか。

 この男は、俺を憎んでいたわけじゃない。


 俺の仕事が、彼の人生を終わらせたのだ。


 彼が俺を殺した理由は、理解できた。

 理解できてしまったことが、一番の失敗だったのかもしれない。


 床に倒れながら、俺は思った。

 真実を明らかにするたびに、行き場を失う感情がある。

 それを誰も拾わないまま、次の事件が始まるだけだ。


 だからこれは、因果応報なんだろう。


 意識が途切れたはずなのに、次に感じたのは妙な静けさだった。

 痛みはない。体の重さもない。代わりに、呼吸だけがやけに鮮明だった。


 目を開けると、知らない天井があった。木目が荒く、天井板の継ぎ目が歪んでいる。

 病院じゃない。少なくとも、日本のそれではない。


 起き上がろうとして、体がちゃんと動くことに気づいた。

 五体満足。指の数も合っている。

 鏡代わりに水桶を覗くと、見慣れない顔が映っていた。年齢は二十前後。特別な特徴はない。


 ――転生、か。


 驚きはなかった。

 納得もない。ただ、事実として受け入れただけだ。


 頭の隅に、淡い光が浮かぶ。

 文字だ。勝手に理解できる。


 《ステータス》

 体力:平均

 魔力:平均

 技能:なし


 予想通りだった。

 俺は前世でも、派手な才能を持っていたわけじゃない。


 その下に、ひとつだけ不釣り合いな項目があった。


 《感情ログ》


 説明はない。

 触れてみても、反応はなかった。


 ……ハズレ、か。


 そう判断した瞬間、部屋の外が騒がしくなった。

 村の広場らしい。誰かが集められている。適性検査だろうか。ここでは、よくある光景らしい。


 人が選ばれ、役割が与えられ、残りは静かに散っていく。

 正しい。合理的だ。誰も責められない。


 その輪の外で、ひとりの若者が拳を握りしめた。

 その瞬間、視界がわずかに歪む。


 文字が、浮かんだ。


 【感情ログ:後悔】

 ・名前を呼ばれなかった

 ・努力は、数えられていなかった

 ・理由は、聞けなかった


 胸の奥が、冷えた。


 ああ、まただ。

 俺は、生きている人間の“残り滓”を見る役目らしい。


 正しい判断だった。

 だからこそ、この感情は、どこにも行き場がない。


 この能力が役に立たないと言われた理由が、ようやく分かった。

 これは、事件にならなかった感情を、全部拾ってしまう力だ。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

この物語は「語られなかった感情」を記録していく話です。

合えば、続きを覗いてもらえると嬉しいです。

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