7、影を抱く心
夜。リュミエールの街は、静かに眠っていた。
だが、エリシアの心は眠らなかった。
目を閉じても、あの光景が蘇る。
燃える浮島、崩れ落ちる塔、そして――
黄金色の瞳で玉座に座る“もうひとりの自分”。
「……わたし、あれを……?」
声にならない震えが胸を締めつける。
涙が自然と頬を伝う。
初めて、自分が“悲しい”という感情を知った瞬間だった。
その時、カイルがそっと肩に手を置いた。
「泣いていいんだよ。泣いたって、オレは君を止めたりしない。」
「……でも、あの光景は……」
「過去だ。今の君は違う。君はもう、あの時の自分じゃない。」
言葉は簡単だ。けれど、胸にじんわり届く。
エリシアは肩を揺らして、初めて“誰かに甘える”ことを知った。
そこへ、セラが静かに膝をついて彼女の目線に合わせた。
「……エリシア。記憶はあなたを縛るためにあるんじゃない。
未来を選ぶためにあるの。
あなたがアーカディアを滅ぼした“過去の自分”であっても、今のあなたは違う。」
「わたし……違う?」
「そう。だから、自分を責める必要はない。」
エリシアは息を吐き出す。
胸の奥で、初めて“安堵”と呼べる感覚が広がる。
泣き、震え、痛む――そのすべてが、初めて知る“心”だった。
カイルは笑った。
「ほらね。泣いたって大丈夫。オレがついてる。」
セラは少しだけ微笑む。
「……泣くのも、学びの一つね。」
初めて、自分の心に色がついた。
悲しみも、恐怖も、安堵も――
凍てついた心に、少しずつ暖かい光が差し込む。
そして、エリシアは決意する。
「……わたし、あの国のことを、全部知りたい。
過去も、そして未来も――」
雪の街の夜空に、初めて星が輝く。
光と影を抱えた少女の旅は、ここからさらに深く、壮大に続いていく。
これからは土曜日にあげていこうと思います。
知ってるかもしれませんが、4日から新シリーズも掲載開始しました。あちらは水曜日にあげていこうかと……




