6、記憶の欠片
学都リュミエール――
石造りの塔と水路が交差する、知の都。
魔導師や学者が集い、古代の文献を解き明かす場所。
三人は街の外れにある学院の研究室へと案内された。
机の上には、無数の古い羊皮紙。
セラはその中から一枚の地図を広げた。
「これが、かつて存在した〈アーカディア王国〉の記録よ。」
カイルがのぞきこむ。
「……海の上に浮かんでた国?」
「そう。空に近い“浮島の王国”だったと言われている。
魔法によって大地を持ち上げ、天に最も近い国を築いた――そう伝えられているわ。」
エリシアは地図の一点を見つめていた。
「……ここ、知ってる。」
セラが目を上げる。
「何ですって?」
「この湖……白い塔があった。空の光を集めて、国を照らしてた……。」
彼女の声は小さく、けれど確かに震えていた。
カイルは驚いてエリシアを見た。
「見たことあるのか? 夢で?」
「……わからない。夢じゃない気がする。でも、どうして……?」
セラは静かに言った。
「――おそらく、あなたの中に“アーカディアの記憶”が眠っているのよ。」
「記憶……?」
「この印は、ただの王家の証じゃない。
古代の魔法“継承”――魂に記憶を刻む術式。
つまり、あなたはアーカディアの血を継ぐ者。もしくは――」
彼女が言葉を区切った瞬間、
部屋の灯がふっと揺れた。
空気が震え、窓の外の風が凍る。
「……まただ。」
エリシアの胸が痛んだ。視界が白くかすむ。
遠くから声がする。
『――アーカディアを、守れ。』
手が勝手に伸びる。
魔力が零れ落ち、床に光の紋章が広がった。
セラが慌てて詠唱を唱える。
「エリシア、意識を保って! 記憶の扉が開きかけてるの!」
だが、彼女の心はすでに遠くへ沈み始めていた。
浮かぶ都市、燃える空、そして――
玉座に座る“もうひとりの自分”。
その瞳は、冷たく美しい黄金色。
『私が……わたし……?』
光が弾け、世界が崩れる。
そして――彼女は現実へと引き戻された。
カイルが肩を支えて叫ぶ。
「エリシア! 大丈夫か!?」
エリシアは息を荒げ、うつむいたまま答えた。
「……わたし、見たの。あの国が滅びる瞬間を。」
セラは眉を寄せ、低く言った。
「――どうやら、あなたの中に眠るのは“王族の記憶”だけじゃない。
アーカディアを滅ぼした魔導姫の記憶も、同時に継がれているわ。」
空気が重くなった。
カイルの笑顔も、少しだけ消える。
“アーカディアを滅ぼした者”――
それが、エリシアの“もうひとりの自分”だった。
めちゃめちゃ遅くなり申し訳ありませんm(_ _)m
また定期的に出していきます。




