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破綻

作者: 大森ギンガ

頭の痛さで目が覚める。

いつの日からか、毎朝薬を飲むことがルーティンとなっている。

時間が重なっている。

生活が重なっているのではなく、記憶が同じ場所を何度も踏んでいる感覚だ。


仕事は辞めた。

ちゃんとした理由はなかった。

強いて言えば「行かなくても問題がないと気づいた」から。

もちろん実際は問題だらけで。金の問題、生活の問題、人間としての問題。

でも、それらの問題よりも「誰も咎めてこない」ことのほうがよほど応えた。


アラームが鳴っている。

止めるのが習慣になっているだけで、起きる理由にはならない。

カーテンは閉めたまま。

窓の外にだけ、季節がある。


冷蔵庫の中は数日同じまま。

賞味期限が切れていくのを待っている。

腐るまでの過程が、いまの自分に似ている。

捨てるタイミングがわからない。

もう駄目だとわかっていても、明日までは置いておく。

何かに似ている。

何に?


人と話していない。

声を出すのは、あくびをした時と、シャワーでお湯と水を間違えた時くらいだろう。

自分の声が、自分の声じゃないように聞こえる。


何をすればいいのか、とよく考える。

でも、本当は逆だ。

「何をしても、もう意味がない」と思いはじめたときから、破綻は始まっていた。

問題は、そこからが長いということだ。

破綻したまま、現状はしぶとく続いていく。

気づかれないまま、じわじわと、確実に。


死にたいとは思っていない。

でも「死なない理由がない」状態が続いている。

今日死なないのは、惰性か、恐怖か、たぶんそのどちらでもない。

今日死ななかった理由を、うまく説明できない。

だから明日も、生きてしまう。


スマホを開くと、ニュースが流れてくる。

電車が止まった話。誰かが飛び込んだらしい。

迷惑、という文字がSNSにはたくさん並んでいる。

私は、誰にも迷惑をかけたくない。

だから、死ぬときは歩いていける場所がいい。


ベッドの下に、いらなくなった日用品を詰めてある。

死んだあとに誰かが開けることを想像して、少しだけ片付けてしまう自分がいる。

まだ、誰かの視線を想像している。

その程度にはまだ正気だ。


でももう、なにかを試す気力も、なにかを諦める決断も、何もかもが崩れ落ちて行く。


今日も、誰にも見つからずにちゃんと壊れていく。

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