『悪役令嬢の娘の母親に転生したけど、没落貴族で借金まみれの人生を、元社畜の知恵と愛で乗り越えて幸せを掴み取ってみせます!~モブ母だけど、悪役令嬢の娘を幸せにするのは私です~』
目を覚ますと、そこは見知らぬ天蓋付きのベッドの上だった。
――あれ? 死んだはずじゃ?
数日前、私はブラック企業で三日徹夜の末、職場でそのままバタンと倒れ、そのまま目を覚まさなかった。目の前が真っ白になって「やっと休める……」なんて思ったのに。
「……お母さま?」
細い声がした。振り向くと、金髪巻き毛の女の子が、心配そうに私を見つめている。
(え、誰?)
脳裏に突如として流れ込んでくる大量の記憶。どうやら私は乙女ゲーム世界に転生していたらしい。しかも転生先は、悪役令嬢・クラリスの母、エリザベート・フォン・アルバローゼ。
――ちょっと待て。クラリスって、確かゲームだと婚約者の王子に嫌われて、ヒロインに苛めたとかで断罪される悪役令嬢じゃん!
そしてその母親、エリザベートはというと、夫に逃げられ、家は没落、借金まみれのまま病死。娘もその後、処刑されて終了。
「娘共々バッドエンドコースじゃないか!」
私は、ベッドから転げ落ちそうになりながらも、固く誓った。
(このルート、絶対に回避してみせる!)
* * *
まずは現状把握だ。
借金:3000万リル(日本円で言うと3千万くらい?)
資産:屋敷はあるがボロ。使用人も既に全員解雇。
夫:若い女と駆け落ち。手紙一通で離婚通告済み。
――詰んでる。
けれど、元社畜の底力、見せてやろうじゃないか。
私はまず、家に残っていた家具や食器を査定してもらい、最低限の現金を確保。次に、娘クラリスの教育を見直した。あの子、顔はいいけど、ヒステリー気味でプライドが高く、コミュ力が壊滅的。
「クラリス、あんたまず、“ありがとう”と“ごめんなさい”を覚えなさい」
「は? お母さま、それは平民が使う言葉でしょう?」
「うるさい! まず言え!」
元営業部主任を舐めるな。私は罵倒も説得も、泣き落としも得意なんだよ!
三か月後、クラリスは驚くほど変わっていた。
「ありがとう。お花、きれいね」
なんと、花屋の少年に笑顔で礼を言っている!
「母上……クラリスが……笑ってる……」
この国の王太子・アレクシスが、あまりのギャップに口をあんぐりと開けたのを、私は見逃さなかった。
* * *
ここからは勝負所だ。
私は王宮の舞踏会に“母親”として同行し、社交界の有力夫人たちに頭を下げて回った。昔は「エリザベート様」と持て囃されたが、今では「借金まみれの哀れな元貴族」と陰口の嵐。
でも、私は笑って言い返す。
「ご心配なく、借金なんて返せば終わる話ですわ」
そうして、過去の人脈を総動員して事業を開始した。商品は、“平民向け高品質化粧品”。
社畜時代の知識と、元貴族の信用を活かして、魔道薬師と提携し、初回限定品を作って貴族婦人にばらまくと、あっという間にバズった。
「この艶、魔法じゃないの!?」
「平民向けって言ってたのに……このクオリティ!」
そして利益は倍々ゲーム。半年後、全借金を完済!
* * *
一方その頃、クラリスにも変化が。
「……婚約者、変更させていただきますわ」
王子にべったりだったクラリスが、アレクシスの前で毅然と頭を下げていた。
「私、恋愛をする資格がまだありません。もっと、自分の人間性を磨いてから……」
かつての悪役令嬢が、自分の意志で未来を変えようとしている――その姿に、アレクシスは完全に落ちた。
「クラリス嬢、あなたの努力、私は見ていました。どうかもう一度、私の隣に……」
「……はい」
私は、こっそりガッツポーズを決めた。
娘の未来は明るい。そして私は、社交界で再び「やり手女主人」として名を上げ、事業の拡大も順調そのもの。
その夜、久々にクラリスと食卓を囲んだ。
「お母さま、今日も素敵でしたね」
「……ありがとう。あなたの努力が一番の誇りよ」
涙ぐむ娘を見て、私は心の中で叫んだ。
――社畜でも、モブでも、母親でも。人生は、自分の手で変えられる!
そして明日も、私は“最強のモブ母”として、娘と共に歩いていく。