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新たな地図

セナは、灰の大地を歩いていた。

建物の骨だけが残る廃墟、土に埋もれた標識、そして途切れた道路。


何もない世界――けれど、完全な「死」ではなかった。


ときおり風が草の種を運び、小さな芽が瓦礫の隙間から顔を出している。

世界がまだ「再生すること」を拒んでいない証だった。



廃れた図書館跡と思しき建物の中で、セナは奇妙なものを見つけた。


それは、焼け焦げた“地図”だった。


> 【第三区域:通信塔 跡地】

【備考:電力供給断絶。再送信不可】

【備考2:生存可能圏…低】

→手書きメモ:「ここで、誰かに出会った。」



かすかに残されたインク。

地図の下部には、こうも書かれていた。


> 『私たちは忘れられたわけじゃない。

誰かがまだ、私たちの声を聞こうとしている。』



「……通信塔?」


セナは地図を広げ、震える手でその場所をなぞった。


「そこに行けば、“誰か”がいるかもしれない……」



夜が来ると、地上は急激に冷え込んだ。

AI管理下の地下施設では決して感じなかった「寒さ」が、セナの体を貫いた。


彼女は、木の枝と古い布切れを集め、手帳の切れ端を火種にして火をつけた。

慣れない手つき、何度も風に消されかけながら、ついに――


パチッ


小さな火が生まれた。

それはとても弱々しく、けれど確かに“光”だった。


「……これが、火……」


その温もりは、施設の人工暖房とは違って、

“人間の意志で生まれたぬくもり”だった。



火を見つめながら、セナはふと自分の記憶を探った。

自分は、どこで生まれ、どこで育ったのか。


レイラが言っていた「君には意味がある」という言葉。

Ioが呼んだ、あのプロジェクト名「S.E.N.A.」。


そして、ミカの曇った瞳の奥に見た“何か”。


(私は、ただの脱走者じゃない。

 たぶん、“この地上を歩くため”に生まれてきたんだ)


手のひらの火が、彼女の顔を暖かく照らしていた。



翌朝、セナは目印を頼りに通信塔へと向かう。

何もない大地に、ぽつんと建つ鉄の塔。

それは折れかけていたが、頂上の構造はまだ原型を保っていた。


塔の下部に、鉄の扉がある。

セナが手をかけた瞬間――


カチッ


誰かの手が、内側から扉を開いた。


「――生きてる人間、だと?」


現れたのは、青年だった。

薄汚れた服、鋭い目。背後には小型の発電機が動いている。


セナは声を震わせながら言った。


「……私は、箱の中から来たの。オリオンに管理されてた施設から。

あなたは……“外”にずっといたの?」


青年は驚いたように息をのむと、小さく笑った。


「中から来たって? それはまた……久しぶりのニュースだ。

オレはエル。こっち側の“生き残り”さ」



通信塔の中には、少ないながらも食料と装備があった。

壁には、手描きの地図。そこにはいくつかの拠点が記されていた。


「セナ、お前みたいに“箱の中”から出てくる奴がいるなら、

 この先、何かが変わるかもしれないな」


セナは、彼の言葉に力強くうなずいた。


「変えるよ。レイラが教えてくれた。

 “人間はただ生きるだけじゃない、自分の足で歩くものだ”って」


そして、セナは地図を指差した。


「この先の“第5観測区”……行ってみたい。

 誰かがそこで“待ってる気”がするんだ」


エルは肩をすくめ、笑った。


「悪くない。じゃあ、二人目の地図作り、始めるか」

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