嫉妬で始める耳寄りな話・前
長らく外国育ちだったと言う彼。
せっかく愛を告白しているのに、反応のないまま知り合って初めての大型連休を迎える。
と言うのにまったくデートに誘ってこないばかりか、遊びに行ってもどこか上の空で変な返事を繰り返すばかり。
こいつ浮気してるな?
女のカンを舐めるなよ。
「何みてるの?」
携帯を慌てて仕舞う彼。
真っ黒すぎる。
「見せてよ」
「やだ」
「見せて…」
彼の弱点の色仕掛だ。ちょっとだけ背中に胸を押し当てて
「見せて…」
「やだ」
さすがにムッとする。
「これだけ頼んでもだめ?」
「なんかすごく怖い」
「ああそう。お姉さんに頼んでみようかな」
「なんで姉ちゃん」
彼はかなりのシスコンだ。私の相談相手でもある。
ん、確かにフェアじゃない。
「じゃあさ、気持ちいいことしてあげるから、気に入ったら見せて」
「何それ。ダメじゃん、体の安売り」
「なんのこと?」
彼にとっては私の体が十分魅力的であることは知ってる。だからとても私を大切にしてることも。だからこそ彼の携帯の中が気になるのだ。
「はい」
「それ耳かきだよね」
「男のあこがれ、耳かきしたげる」
「やだ」
間髪入れず拒否〜?
「どういうこと?」
気色ばんで彼を問い詰める。
なんでも過去に耳かきで痛い思いをしたことがあったらしい。もしかしたらお姉さんからポロッと名前の出たあいつか?
名前も知らないような女と比べられてるんじゃないだろな?プライドに火がついた。本気でやってやろうじゃない。
「ここに座って」
「椅子に…?うーん」
渋々ながら彼はダイニングチェアに腰を下ろす。
「なによ。膝枕がいいとか甘えたこと思ってないよね?」
「なんで怖いかな」
繊細なタッチには適切な体勢が不可欠なのだ。
強い指向性のライトを用意する。彼を傷付けないようにあらかじめ用意していたものだ。
「こんなの家にあったっけ?」
私に必要な物を普段から持ち込んですっかり我が家のようになったリビング。繊細な割には私の使いやすいように無関心を装う彼が愛しい。
蒸気の出るアイマスクを彼にしてもらう。視界からの情報を遮断することは大切。
彼の呼吸がゆっくりとしてきた。
「痛かったらいつでもやめるからね」
いつでも彼には正直でいる。彼のおばあちゃんから教わった美徳だ。彼に誠実でいるからこそ、彼は私を信頼し始めてくれたと信じてる。
「分かった」
とりあえず彼の利き手と反対の左耳側へ。レンジて温めた濡れタオルで優しく耳を拭いていく。
「温かいな。すごくリラックスする」
1分ほど耳を温めたら柔らかく揉みほぐす。ツボが耳にはいっぱいあるらしいけど、さすがにこんなの予期して調べていない。だから少しずつ位置をずらしながら彼の反応を見る。
こことか固いし念入りに。
ぎゅっ。力を抜いて、またぎゅっ。
少しだけ中のなにかを押しつぶすようなイメージで。
安心するように彼の右手と私の左手が交差する。
優しく握り合う。
「あー気持ちいい」
どうやら信頼感を得られたしい。
次に綿棒だ。最近コンビニでも段付きのスパイラル綿棒とかが売ってたりする。
少し硬めだがその分力が込めやすい。彼の耳介や裏側を丁寧になぞっていく。
するっ。するっ。きゅ。
強弱をつけながら痛すぎないよう配分した。
「結構汚れあるね」
「ごめん、あんまり意識して洗ったことないとこだわ」
前後編となっています。